町からはじめて、旅へ

赤い背表紙の「町からはじめて、旅へ」を持っているので、中古の本屋さんなどでこのハードカバーの単行本を見かけても、手に取ることもせず、同じ内容なのだと頭から疑わずにいた。

しかし、今年の1月に晶文社さんから40年ぶりに復刊された時に、内容が微妙に違うのだということをどこかで見かけて、すぐに注文したのだった。


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片岡さんには、『真夜中のセロリの茎』のように、同じタイトルだけれど全く違う内容のものがあるということを知っていたにもかかわらず、うかつだった。

だから、片岡さんが書く本は、とりあえずは手にとって中身を確認しなくてはいけないのだ。

いけない、と書いたけれど、それはいやいやしなければならないという意味ではなく、もしかしたらまたとワクワクしながら手にとりたいという感覚だ。


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私はいつも、気になった部分をメモするように取り出しては、ブログに残しているが、前にピックアップしたところと、今回のとを比べてみると同じようなところを書き出していることを発見して、つい苦笑いをしてしまった。

しかし今回の本で特に興味深い箇所は、「ぼくの食料品体験」だ。

片岡さんという人を作り上げてきた食べ物たちのことは想像するだけでも楽しい。

ひとつ残念なのは、片岡さんが美味しいと感じていたトマトは、もう存在しないということだ。

私が子供の頃に食べたトマトは、今よりずっと酸味があって青臭かった記憶があるが、そのトマトにももうお目にかかっていない。


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私が手に入れた赤い背表紙の「町からはじめて、旅へ」は初版で昭和五十六年二月五日となっている。

それをこの単行本と並べて写真をとってみた。

そしてこの二冊の紙の色を見て、その間の年月のグラデーションを想像して遊んでみた。




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# by space_tsuu | 2015-11-17 00:01 | ハードカバー

タイトル別

■ 赤い背表紙(短編)

恋愛小説3

恋愛小説2

パラッド30曲で1冊

恋愛小説

ドライ・マティーニが口をきく

ふたとおりの終点

マーマレードの朝


夕陽に赤い帆


私はいつも私


雨のなかの日時計

微笑の育てかた

ラジオが泣いた夜

今日は口数がすくない


星の数ほど

波乗りの島 - ブルー・パシフィック・ストーリーズ -


一日じゅう空を見ていた

缶ビールのロマンス


散ってゆく花

誰もがいま淋しい

最終夜行寝台

ボビーをつかまえろ

ボビーに首ったけ

私は彼の私


人生は野菜スープ

嘘はほんのり赤い

花なら紅く


五つの夏の物語


物語の幸福

寝顔やさしく


狙撃者がいる

花のある静かな日

ふたり景色


離婚しました

俺のハートがNOと言う

いい旅を、と誰もが言った

口紅と雪の結晶


美人物語

スローなブギにしてくれ


5Bの鉛筆で書いた

■ 赤い背表紙(中編)

彼女から学んだこと


タイプライターの追憶

彼のオートバイ、彼女の島


生き方を楽しむ

and I Love Her

魚座の最後の日


友よ、また逢おう

心のままに

敍情組曲

結婚のヒント


Ten Years After

少年の行動

彼女が風に吹かれた場合


彼のオートバイ、彼女の島 2

あの影を愛した

恋愛生活

彼らがまだ幸福だった頃

吹いていく風のバラッド


長距離ライダーの憂鬱 -オートバイの詩-


■ 赤い背表紙(長編)

幸せは白いTシャツ


限りなき夏1


湾岸道路

ときには星の下で眠る

ボーイフレンドジャケット


■ 赤い背表紙(エッセイ)

個人的な雑誌1

すでに遥か彼方

アールグレイから始まる日

アップル・サイダーと彼女

ぼくはプレスリーが大好き

きみを愛するトースト


ロンサム・カウボーイ

コーヒーもう一杯

個人的な雑誌 2

町からはじめて、旅へ


■ 赤い背表紙(詩集)

yours

■ 青い背表紙

頬よせてホノルル

8フィートの週末


甘く優しい短篇小説

最愛の人たち

■ 緑の背表紙

撮られる彼女たち

■ 白い背表紙

エンドマークから始まる

■ 白と青緑の背表紙

夏と少年の短篇

■ 白と黄の背表紙

撮って、と被写体が囁く


■ グレーの背表紙

香水と誕生日


■ オレンジの背表紙

最愛のダークブルー


ドアの遠近法

こちらは雪だと彼女に伝えてくれ

■ 淡いオレンジの背表紙

浴室で深呼吸

赤い靴が悲しい

美しいひとたち

■ テディ片岡

意地悪ポケット本

■ essay

昼月の幸福

■ 詩集

メントール・ユーカリプト

■ collaboration

キス・キス・キス

Ambient Hawaii

カヌーで来た男

■ English

HELP ME SEE THE SKY and another stories 一日じゅう空を見ていた


■ Kadokawa-Novels

■ KADOKAWA GREETING BOOKS

THE FOUR OF US 最愛の人

■ハードカバー

町からはじめて、旅へ

■その他

paperback (Switch Special Issue) Late Winter 2002 vol.4


■ 私の心とその周辺

私の中の架空の彼女

海亀と一緒に泳いだ

ストリチナーヤでバーバラ

不思議な香りのするウォッカ

キャンベルの赤い缶

お気に入りのバーで、素敵な夜を


ホテルという異次元空間

オートバイとオープンカー

理想的なあり方


飛ばされながら月を見た

夏の海とメープルシュガー

雨の壁、霧の壁、虹のふもと


モノクロ写真に紅一点

片岡さんの写真展

午後の海とブルーハワイのラムネ


コーヒー一杯の雨雲


ブルーな一日


涙が落下していく

透明になってついていく

少年かもしれない


屋台の中華そばのブルース


「コーシー」の想い出

ある一瞬の物語

夜という宇宙空間


私の空の心象画

上り坂の地平線

宝物に伸びる影


雲の楽しみ方の一例

すべては自分次第


水たまりの白日夢

あいまいな午後の陽射しの香り

晴れた夜、RainyDayで


雲の上の未来


せつなさの断面

450キロ間の乾杯

気温24度、風力タービン

表参道の地下鉄から

先月は空からながめた

ベージュの幌に雨の音

飛行機からながめる宝石

いつか見た夢

彼女のグラス

ブルーの中に浮かぶうろこ雲

永遠の島

いつの間にか消えた

「形」になった記憶

答えは「動的平衡」だった

白いヘルメットのアメリカ国歌

黒い屋根、グレーのボディに七色の虹

直径1インチのスカイ・ブルー

目ざめても夢の中

ハーレーの影は私

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# by space_tsuu | 2015-11-17 00:00 | タイトル別

その日はじめてのコーヒー

彼女はキッチンに入り、ケトルに水を入れ火にかけた。

湯がわくまでほんの少しの間、どこを見るというわけではなく、また何かを考えるというような感じではなく、その場に立ったままでいた。


ふと、かたわらにあったチョコレートの箱に視線をうつした彼女は、その薄い箱を手にとった。

箱の右上には31%カカオという金色の文字が光っていた。その下に金色の線でかこまれた赤い正方形があり、中にミルクチョコレートと英語で表記されていた。

彼女はその箱を開け、中の金色の包み紙を指先で切り取り、ひとかけらぶんのチョレートを割った。

横が4センチ、縦が3.5センチで厚みが5ミリほどのそのチョコレートの真ん中には、馬にまたがった裸婦の絵が型押しされていた。

その絵をながめていると、ケトルの細長いそそぎ口から勢いよく湯気がたちはじめた。

彼女は指先につまんでいたチョコレートをいったん小さな皿の上に置いた。


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彼女は火を止め、コーヒー豆を自動で挽いてくれるグラインダーのスイッチを一人ぶんひねった。

コーヒーの香ばしい香りがあたりに瞬時に広がる感覚を鼻腔でとらえ、彼女は微笑した。

コーヒーの淹れ方として、コーヒーの粉を湿らせるお湯をのぞいて、80cc,60cc,40ccを順番に注いでいく方法を何かで読んでいつか試そうと思っていたことを彼女は思い出し、実際にそうやってコーヒーを淹れてみた。

りんごをモチーフにした白いコーヒーカップに出来たてのコーヒーを丁寧に注ぎ、さきほどのチョコレートをつまんだ。

そして、一口かじってから、コーヒーを飲んだ。

チョコレートのおいしさがコーヒーによって増幅され、またコーヒーの香りや味もチョコレートによって最大限に引き出されるのを感じながら、もう一口コーヒーを口に含んだ。

やはり美味しさは一口目が最高だと思いながら、その日はじめてのコーヒーを彼女は楽しんだ。



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# by space_tsuu | 2015-06-18 00:00 | 私の心とその周辺

私の心とその周辺

いつものように片岡さんの本から抜粋したことがらをブログに書くために、設定という文字をクリックし、開いたページをなにげなくながめていると、左下のほうに「大切な思い出をブログから一冊の本に」という言葉を見つけた。
何度か見かけていたはずだったが、ふと思い立って、そこをクリックしてみた。
すると、自分のブログを本にしてくれるという記事がそこに紹介されていた。
一冊からでも作れるということだったので、気まぐれに一冊作ってみようかと思いたち、実行することにした。

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最初は、すべての記事を本にしようかと思ったが、すぐに考え直し、「私の心とその周辺」だけにすることにした。
自分が書いたものを自分で編集する気分は、照れくさいような楽しいような不思議な気持ちだった。
読み直していくうちに、これは直したほうがいいかなと思う部分もたくさんあったのだけれど、直さずにその時の自分の気持ちをそのまま忠実に本にしてみたくなった。
だからそうすることに決めて、数日かけて本にする作業を終えてMybooksというところにお願いをした。

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しばらくすると、郵送で自分のもとに薄い一冊の本が送られてきた。
封を開けて、作ってもらった自分だけの一冊を手にとってながめた。
光沢のある表紙には、自分で撮った風車の写真があった。
この写真は、片岡さんがFree&Easyのエッセイに載せてくださった写真だ。
私が送った何枚かの写真を片岡さんがご自分で並べて何枚か撮り、それを使ってくださったのだ。
そのエッセイを読んだ時のことは今でもはっきり覚えている。
読み始めると心臓の鼓動が高まっていくのが感じられたと同時に本を持っている手が心なしか小刻みにふるえているように思えた。
しかし、読みすすめるうちに、どこか第三者的な感覚に自分が変化していき、落ち着きをとりもどしていった。

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この風車の写真を見ると、撮った時の自分の心の動きも思い出す。
白い雲が風車の後ろに、まるくあえてそうしたように浮かんでいて、その右上にはぽっかりと真昼の小さな白い月が浮かんでいた。
心の中で、わぁと叫んだ私はおそらくはたから見たなら、満面の笑みを浮かべていただろう。
そしてその様子を永遠に残しておきたくて私はすかさずシャッターを押したのだった。

その写真を表紙に使った自分だけの本を一冊私は作った。

ここで、ひとまずブログは休もうと思ったので、そうしていたけれど、ブログに書いていない片岡さんの本はまだまだ私のもとに大量にあるし、片岡さんも次々にたくさんの本を出版されている。
どうやらまた私にブログを再開する気持ちが出てきたようだ。
また、心のままに。
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# by space_tsuu | 2015-06-17 00:00 | 私の心とその周辺

恋愛小説3

「時間」というものについて思いをめぐらせてみた。
ある日ある瞬間に「自分」がこの世に誕生する。その時、「時間」はすでに遥か昔からゆらゆらと揺らぎながらとぎれることなく流れている。そこに新たに「自分の時間の糸」が加わる。遥か昔からあるといっても、誰も確認できない誰のものでもない「時間」に、絡まるわけでもなく寄り添うように、時にはぴんと張りつめたり緩んだりしながら「自分の時間の糸」は伸びていく。

いつだったか、アコーディオンとコントラバスの男女ひとりづつのデュオのライヴを聴きに行った。初めて見る二人の息のあった絶妙で繊細などことなく不思議な世界に私はすぐに引きずり込まれた。
私はまるで深い森の中でふたりの演奏に出くわして心地よい衝撃を受けたような気分だった。
アコーディオンの彼女は、まるで楽器とダンスをしているように見えた。私は音と時間が作り出す旋律に静かな興奮とともに身をまかせた。
演奏が終わってから、私は彼らのCDを一枚買い、車の中で聴きながら家に帰った。すぐに車の中は、さきほど感じた雰囲気と同じ空間に変わった。家に帰ってからもほどよくアルコールの力をかりて彼らの世界観から抜け出すことなく眠りについた。
そして次の日は朝からそのCDを聞かず、仕事が終わって車に乗り込み、あたりがじゅうぶんに暗いことを確認してからCDのスイッチを押した。
曲が始まると同時に、昨日の夜が再現されたように感じた。昨晩からゆらゆらとゆっくり伸び続けている「時間の糸」が、今日一日仕事をした日中の部分だけ電球の形のようにだらりと垂れ下がり、昨日の夜と今日の夜がつながったように思えた。

音や匂いなどの五感によって、「過去の時間」は記憶の倉庫から形を変えながらひっばり出され、ほんの一瞬「今」とつながる。そして、人はそれをなつかしがったり、悔やんだりする。そんなこととは関係なく「自分の時間の糸」は先へ先へとさらに伸びていく。そしてある時、ぷつりと途切れて、あとかたもなく消えてしまう。
大きくゆったりと流れている誰にでも関係があり、そして誰とも関係のない「時間」の中に、その人の「時間」の残骸だけが、あとには残される。

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次の文章は表紙をめくったページに書かれていたものだ。「春眠暁を覚えず」だったのでしょうか。
きっと夢の中の「知ってる人」も、ゴジラが片岡さんだったら、さぞかしびっくりしただろうななどと想像したらクスっと笑ってしまった。

「ゴジラになった夢をはじめて見ました。相模湾から上がって来て富士山を踏みつぶし、噴火の熱をかかとに感じつつ東名を壊しながら東京へいき、東京タワーをへし折り国会議事堂を蹴とばし、そこから二歩で銀座四丁目、もう一歩で日本橋。地面に手を突っこみ、まさぐって地下鉄をつかまえ、引きずり出して顔のまえにかかげて観察したら、その地下鉄のなかに知ってる人がいてびっくりし、目が覚めたのです。春さきの夜の夢でした。」

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# by space_tsuu | 2013-11-20 00:00 | 赤い背表紙(短編)