IE9ピン留め
直径1インチのスカイ・ブルー
やや早めのランチを食べにふたりはイタリアン・レストランに入った。
席に着いて注文をし、店内をさりげなく見渡すと、レジの横に本棚を見つけた彼は、ゆっくりとその本棚に向かった。彼女も誘われるように席を立ち、その本棚の中から一冊の本を手にとって席に戻った。
彼女の本は、和食の作り方を英語で書いてある料理の本だった。
テーブルに料理が運ばれてくる間、ふたりはそれぞれの本に気持ちを集中させた。



サラダが運ばれてきた時に、彼は読んでいた本を彼女に渡し、彼女はそれをとなりの椅子に置いた。
彼が読んでいた本は色の名前についての本だった。彼女はふたたびその本を手にとり、パラパラとめくってみた。
様々な色の名前が綺麗な写真とともに説明されている内容に加え、ところどころにコラムがあった。
ふと、ある文章に目がとまり読んでみると、「夏の晴天の10時から15時の間、水蒸気や塵の少ない状態で、ニューヨークから50マイル以内の上空を、厚紙にあけた直径1インチの穴から約30cm離れて覗いたときの色」がスカイ・ブルーなのだと書かれていた。
彼女の顔に微笑が浮かび、それをぜひとも実行するために、またニューヨークに行かなければいけないという口実ができたわねと、彼にむかって言った。
「その前にマウイ島ではなかったっけ」と言う彼の前に、トマトソースのパスタが運ばれてきた。
それを見ながら、「マウイのトマトも食べなければ」と、彼女は言い、ふたりは笑った。
# by space_tsuu | 2011-10-25 00:00 | 私の心とその周辺 | Comments(0)
タイトル別
■ 赤い背表紙(短編)

ドライ・マティーニが口をきく

ふたとおりの終点


マーマレードの朝



夕陽に赤い帆



私はいつも私


雨のなかの日時計

微笑の育てかた

ラジオが泣いた夜


今日は口数がすくない


星の数ほど


波乗りの島 - ブルー・パシフィック・ストーリーズ -


一日じゅう空を見ていた


缶ビールのロマンス


散ってゆく花

誰もがいま淋しい

最終夜行寝台

ボビーをつかまえろ

ボビーに首ったけ


私は彼の私



人生は野菜スープ

嘘はほんのり赤い


花なら紅く



五つの夏の物語


物語の幸福


寝顔やさしく


狙撃者がいる

花のある静かな日


ふたり景色


離婚しました

俺のハートがNOと言う

いい旅を、と誰もが言った


口紅と雪の結晶


美人物語


スローなブギにしてくれ


5Bの鉛筆で書いた

■ 赤い背表紙(中編)


彼女から学んだこと


タイプライターの追憶


彼のオートバイ、彼女の島


生き方を楽しむ

and I Love Her


魚座の最後の日


友よ、また逢おう

心のままに

敍情組曲


結婚のヒント


Ten Years After

少年の行動


彼女が風に吹かれた場合


彼のオートバイ、彼女の島 2

あの影を愛した

恋愛生活

彼らがまだ幸福だった頃


吹いていく風のバラッド



長距離ライダーの憂鬱 -オートバイの詩-


■ 赤い背表紙(長編)


限りなき夏1


湾岸道路

ときには星の下で眠る


ボーイフレンドジャケット


■ 赤い背表紙(エッセイ)
個人的な雑誌1

すでに遥か彼方

パラッド30曲で1冊

アールグレイから始まる日

アップル・サイダーと彼女

ぼくはプレスリーが大好き


きみを愛するトースト


ロンサム・カウボーイ

コーヒーもう一杯

個人的な雑誌 2


町からはじめて、旅へ


■ 赤い背表紙(詩集)

yours

■ 青い背表紙

頬よせてホノルル


8フィートの週末


甘く優しい短篇小説

最愛の人たち

■ 緑の背表紙

撮られる彼女たち

■ 白い背表紙

エンドマークから始まる

■ 白と青緑の背表紙

夏と少年の短篇

■ 白と黄の背表紙


撮って、と被写体が囁く


■ グレーの背表紙

香水と誕生日


■ オレンジの背表紙


最愛のダークブルー


ドアの遠近法

こちらは雪だと彼女に伝えてくれ

■ 淡いオレンジの背表紙

浴室で深呼吸

赤い靴が悲しい

美しいひとたち

■ テディ片岡

意地悪ポケット本

■ essay
昼月の幸福

■ 詩集

メントール・ユーカリプト

■ collaboration

キス・キス・キス

Ambient Hawaii

カヌーで来た男

■ English


HELP ME SEE THE SKY and another stories 一日じゅう空を見ていた


■ Kadokawa-Novels

■その他


paperback (Switch Special Issue) Late Winter 2002 vol.4


■ 私の心とその周辺

私の中の架空の彼女

海亀と一緒に泳いだ

ストリチナーヤでバーバラ

不思議な香りのするウォッカ

キャンベルの赤い缶


お気に入りのバーで、素敵な夜を


ホテルという異次元空間

オートバイとオープンカー


理想的なあり方


飛ばされながら月を見た

夏の海とメープルシュガー


雨の壁、霧の壁、虹のふもと


モノクロ写真に紅一点

片岡さんの写真展


午後の海とブルーハワイのラムネ



コーヒー一杯の雨雲



ブルーな一日


涙が落下していく

透明になってついていく


少年かもしれない



屋台の中華そばのブルース


「コーシー」の想い出

ある一瞬の物語


夜という宇宙空間


私の空の心象画

上り坂の地平線


宝物に伸びる影


雲の楽しみ方の一例


すべては自分次第


水たまりの白日夢

あいまいな午後の陽射しの香り


晴れた夜、RainyDayで



雲の上の未来


せつなさの断面

450キロ間の乾杯

気温24度、風力タービン

表参道の地下鉄から

先月は空からながめた

ベージュの幌に雨の音

飛行機からながめる宝石

いつか見た夢

彼女のグラス

ブルーの中に浮かぶうろこ雲

永遠の島

いつの間にか消えた

「形」になった記憶

答えは「動的平衡」だった

白いヘルメットのアメリカ国歌

黒い屋根、グレーのボディに七色の虹

直径1インチのスカイ・ブルー

# by space_tsuu | 2011-10-01 00:00 | タイトル別 | Comments(0)
黒い屋根、グレーのボディに七色の虹
何かが大きく確実に、まるで自分では想像していない方向に向けて変化してしまったと彼女は感じていた。
普段なら感じることのない、どこか不安な得体のしれない感情を心の片隅に感じながら、彼女は本棚へ向かった。
何冊か重ねておいてある絵本の中から彼女は薄くて大きめの一冊の絵本を取りだした。
表紙には、どこか不安げな表情を浮かべた、ふたりとも丸顔の夫婦が寄り添っていた。そのふたりの間から、彼らの不安の原因である不気味なきのこ雲が立ち上っている。
その表紙をめくり、ぱらぱらと中を見ていくと、カラフルだった色合いが次第にくすんで汚れていく。
パレットにとった単色づつの絵の具を無造作にかき混ぜていくように、自然の美しさを人間が汚していく。
裏表紙には、ある瞬間をコマ送りのように細かく分けて夫婦の足の裏が描かれている。そしてひと言「blimey」という言葉が吹き出しにある。



暖かい陽射しを感じてふと、窓の外を見てみると、久しぶりに見た雲ひとつない青空が広がっていた。
どこを走ったらこんなに汚れてしまうのかというくらいに泥だらけになっていた車をやっと洗えると思いつき、彼女はガレージに向かって階段を降りた。

彼女の心とはうらはらに、暖かい陽射しとどこまでも澄み切った深い青空が幸せの象徴のように彼女の頭上に広がっていた。
ガレージからオープンカーを出し、エンジンを切って、勢いよく車に向かってシャワーをかけ始めた。
ギャラクシーグレーマイカという色のボディを背景に細かい水しぶきの中に彼女は小さな虹を発見した。
水をかけるふとした角度によって現れる、そのきらきらと幻のように輝く七色の虹を見つけた瞬間、ここ数日忘れていた小さな幸せにも似た安堵感を覚えた。
大きく変化したどこへ行き着くともしれない流れの中に、これだけは決して変わることのないものが自分の中に確かにあるのだということを確認できて、彼女はほんの少し嬉しくなった。そしてさらに車にシャワーの水をかけ続けた。
# by space_tsuu | 2011-04-08 00:00 | 私の心とその周辺 | Comments(2)
夏と少年の短篇
ずっとやりたかったことをひとまず終えてしまうと、祭りの後のようなどことなく寂しいような空虚な気持ちになる。そんな時には片岡さんの小説がいいと思い、手にしたのがこれだ。
まだ時おり春の雪が舞っている中で読む真夏の小説は、心の中に夏のまぶしく暑い陽射しを呼び込んでくれる。
その中に、理想的なあり方を提示してくれているような文章を見つけると嬉しい。

「小夜子は人に対して冷たいのではなかった。自分の息子も含めて、すべての人に対する距離の取りかたに、彼女独特のものがあるだけだ。
粘ったところのまったくない、あくまでもさらっとした距離感であり、なにごとにせよ相手に無理に引き受けさせることをいっさいしないかわりに、相手に対する過剰な期待もなにひとつ持たないという、わかりやすいと言えばたいへんにわかりやすい距離の取りかただ。」



さらに、次に抜粋した文章は、子供の頃に屋根に寝そべって空をながめた時の記憶を引っぱり出してくれた。

「これ以上なにもいらないと思いつつ、裕一は大きくのけぞり、後方の空を仰ぎ見た。ちぎれた白い雲がひとつ、かなりの速度で海岸と平行に流れていた。いまの自分がさらになにかを望むとするなら、あの雲を追いかけることくらいだと、裕一は思った。空はふたつあった。いま彼が見ている空と、裕一の頭のなかにある空のふたつだ。どちらの空も、夏の朝のまっ青な広がりだった。その空を、白くちぎれた雲が、追う人にとって快適な速度で、どこかにむかって流れていった。」

片岡さんの小説では、時おり、こうした食事についての文章を読むことができる。
そういえばそうだった。固ゆで卵とエスプレッソを忘れていたではないか。
読んでいたら無性に食べたくなってきた。明日の朝に真似してやってみようか。

「朝食が面白いよ、恵子さんは。エスプレッソと固ゆで卵なのよ、いっつも。毎日、毎日、おんなじ。朝食だけはね。もうずっとそうなんだって。エスプレッソ・マシーンというのがあって、小さなカップにエスプレッソが二杯、同時に出来るの。カップは三十個くらいあって、おなじものはないの。みんなちがうの。どれとどれの組み合わせにするか、というところから恵子さんの朝食は始まるのね。卵は固ゆで。ひとつだけの日もあれば、ふたつのときも、そして三つのときもあるの。日によってちがうのよ。固ゆで卵にタイミングを合わせてエスプレッソを二杯作って、食べるわけ。ふたつのカップを左右に置いて、両手に交互に持って飲むのよ。そして卵。スプーンの縁で叩いて切れめを入れて、ふたつに割るの。そしてスプーンですくって食べる。塩を少しづつつけて。最高なんだって。高校生になったら、私も始めるから。ほかにも野菜やトーストを食べるんだけど、まず最初は、ほかのものは邪魔くさいからどかしておいて、エスプレッソと固ゆで卵を恵子さんは楽しむのよ。ほかのものをいっしょに食べると、余計な味が混じって嫌なんだって。エスプレッソと固ゆで卵を食べ終わってしばらくしてから、野菜とパンを食べてる。パンは固めのを二枚、かりかりにトーストして、なんにもつけずに」

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# by space_tsuu | 2011-03-11 00:00 | 白と青緑の背表紙 | Comments(0)
タイプライターの追憶
写真を撮ることが昔から好きだった。
今思い返せば、写真に興味を持った最初の記憶として幾度も呼び起こされるのは、
画面の中に六角形の光が数珠つなぎになったような写真を撮ってみたいと思ったことだ。
中学か高校くらいの時に父のカメラを借りて、何度か試しに撮ってみたりしたがうまくいかなった。
写真部に入ろうかなどとも考えたこともあったが、実行に移さなかった。



大人になってからは、ただ気のむくままに、なんの知識もないまま適当にその時に気にいったカメラを買ったり、水中カメラを買ったりしたこともあった。
ある日、インターネットの中で、不思議な写真を見つけた。
真ん中が丸く明るく外側の四すみに向かってだんだん暗くなっていく写真だ。
なんだこの写真はという興味からいろいろ調べてみると、ロモというトイカメラの存在を知った。
ロモを買えば私もこんな素敵な、雰囲気のいい写真を撮れるに違いないと思った。
そして買ってみて、写真の出来映えを見て愕然としてしまった。
現像してできあがってきた写真はどれも大失敗だらけだった。
その頃から、ますます写真に興味を持ち始めて今にいたるのだが、ふとある日、「タイプライターの追憶」をぺらぺらとながめて、ものすごく驚いてしまった。



大好きなこの本をめくればめくるほど、この中の写真たちが私の中にいかに影響を与えているのかを発見することができる。
フェリーの上で撮った写真、ホテルの一室でのベッドの構図、ベッドのわきに置かれた電話、テーブルに置かれたキー、街灯の様子。
私が撮った写真と構図がほとんど同じだ。
知らず知らずのうちに、私の中に蓄積されつつあった構図たちは、この本の中にあった。
何度ながめても、いい。そうだ、私はこういう写真が撮りたいのだとしみじみ思う。
また写真を撮りにどこかに旅に出たい。


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# by space_tsuu | 2011-03-10 00:00 | 赤い背表紙(中編) | Comments(0)
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