恋愛小説2

絵を描くのが好きだった。好きだった、と過去形で書いたからといって、今は好きではないという意味ではなく、昔はよく描いていたけれど、最近はめっきり描かなくなってしまったことに対する自責の念からそう書いた。
人生も半ばを過ぎたなぁなどと、あれこれ思いをめぐらせていた時に、子供の頃に好きだったことや、やりたかったことを、これから少しづつまたやってみようかと思いついた。
真っ先に思い浮かんだのは、絵を描くことだった。

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絵といっても、いたずら書きのようなものが多かったけれど、油絵というものを描いたことがなかったので、まずは油絵に挑戦してみようと思った。何かに興味を持つと、不思議なことにその興味を持った事柄に関する情報が集まってくるようだ。自分が気にするから目に入ったり耳にしたりするのかもしれないが、今まで長年いらしてくれていたブティックに勤めているお客様が絵を描く人で、実は他にも本業をもっていて、インテリアコーディネートなどをやっているということを初めて知った。
そこで、彼女の携帯の中にある彼女が描いた絵の写真を見せてもらった。その絵たちは素晴らしく、こんなふうに私も描いてみたいという思いが強まった。
またある日の早朝、車を運転している時に見た朝もやが濃厚な中にかろうじてうっすら見える太陽が、私にこの光景を絵に描いてごらんとそそのかした。
そして、今回、この「恋愛小説2」を久しぶりにブログに更新しようと読み始めたら、冒頭に「美術館で過ごした時間」とあるではないか。そして、ここにも、絵を描けと言わんばかりの魅力的な光景が広がっていた。
そうだ、やはり、絵を描こう。

そういえば、今回この本の中で、久しぶりに片岡さんが書く性的な描写を目にした。
あからさまな表現はなにひとつないのに、というよりは、ないからこそ、読む人の想像力を大いにかき立てる書き方をしていた。
読んだあと、無性に冷たいビールが飲みたくなってしまった。



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『美術館で過ごした時間』


吉川真理子

買ったばかりのリーヴァイス
ハイ・カットのワークアウト・シューズ
白地にピンクでヒッコリー・ストライプの入った、木綿のシャツ

エスプレッソ

リチャード・ハミルトンの『母と子』コロタイプ・シルクスクリーンによる作品

「太陽の光のなかに浮かんでいる、ぽつんと小さいブルーの星の絵」

「北では、北斗七星は地平線に沈まないの?」
「沈まない。たとえば東北から北の冬には、北斗七星は地平線の上に大きく横たわっている」

「東の空の下に、すっかり落ちた桜の巨木が立っていて、その枝だけのシルエットのすぐ上に、細いオレンジ色の三日月が、まるでお皿のように、上を向いて浮かんでいたりするのよ」

「夜中の、台風一過」
「空を見ると、夜目にもくっきりと、空は晴れ渡っているわけだ」
「磨き上げたように、つるつるに晴れていて、ほんとにすがすがしいの。その空の、西の低いところに、細い三日月が、ぽつんとひとつ、出ています」

「時間の経過につれて、窓から入って来る陽ざしの雰囲気が異なっていくから、部屋ごとに、しかも刻々と、西陽のニュアンスのちがいが楽しめそう」
「秋のはじめから冬にかけての、きれいに晴れた日曜日の午後から夕方いっぱいなど、きっと素敵だよ」



『ティラミスとエスプレッソ』


舞子
異母姉

ティラミス
エスプレッソ
ビール
シャンペイン
ナパ・ヴァレーの赤ワイン(一九七七年、カベルネ・ソヴィニョン)
バゲット
水牛のモッツアレラ・チーズ
トマト

マスタード色のキャデラック・フリートウッド

ジョルジオ・アルマーニのブティーク

香水
キャンドル
赤い大きな提灯

ハーシー・フード・コーポレーション
ハシーズ・キッセズ・チョコレーツ

「も、というひと文字で、世界は現実と比喩とに分かれるのね」
「そうさ」
「よくわかったわ」
「天にも昇る心地を、ティラミスと言う。では、天にも昇る心地を、日本語ではなんと言うか」
「それは、質問なの?」
「質問だよ」
「日本語で」
「そう。天にも昇る心地、ではいけないのね」
「いけない」
「別な言いかたをするのね」
「そうだよ」
エスプレッソを飲んで、しばらく彼女は考えた。そして首を振り、
「降参します」
と、あっさり言った。
「南無妙法蓮華経、と言うのさ」
彼が言い、彼女は声を上げて笑った。


『いつもの彼女、別な彼』

牧野千代子
杉浦
宮沢愛子
澄子
中年の峠、あるいはそれを超えていきつつある年齢の五人の男性
杉浦大吉郎
多恵子
佳代子
山村

ゴールデン・バットのカートン

缶入りのジュース
ツナ・サンドイッチ

味噌汁
納豆
うなぎの蒲焼き
お吸いもの
赤い味噌汁
油を感じさせない、野菜炒め
ビール
寿司
天麩羅
カルピス
外国旅行みやげのブランディ
缶ビール
冷たい麦茶
熱いお茶
白玉
葛切り
クリームあんみつ
豆かん
最中のなかにはさみこんだ、小倉アイス
栗ぜんざい
揚げまんじゅう
あんず蜜豆
パンケーキ
ソーセージ
焼きそば
冷えた西瓜
お茶

サンタン・オイル

木綿の半袖シャツに麻のスラックス、そして濃い色の靴下にウイング・ティップ
ボクサー・ショーツにTシャツ
カーキ色のショート・パンツに、袖なしの黒いTシャツ
カーキ色のショート・パンツに、インディア・マドラスの半袖のシャツを着て、淡いブルーのデッキ・シューズ
コーヒー色をした簡潔なスタイルの水着

デイ・アンド・ア・ハーフ・パック(デイ・パック)

ヴォルヴォのステーション・ワゴン
セダン
白いワゴン車


『楽園よりも不思議』

西島加奈子
矢野慎二
石川大輔
長田江美

エスター・バリント
ロッティおばさん
ウィリー
エヴァ

ユー・バグ・ミー
ジス・ドレス・バグス・ミー
ヒー・バグス・ミー

ニューヨーク
クリーヴランド
フロリダ

コーヒー
エスプレッソ
ちょっとしたケーキ
アイスド・ティー
小さい四角なチョコレート・ケーキ
ラーメン
焼きそば
ビール
緑、赤、そして黄色と、三種類そろっているベル・ペパー
青海苔
バジリコのペースト
スープ
「枕崎の、まだ湿っている鰹節。堅く乾いていないやつ。水分が充分に残っているかつお節。」
「それで出汁を取るのか」
「それのスープだよ。削るんだ。どんぶりのなかに、削る。たくさん削るといい。充分に削ったなら、熱湯を用意する。そして、けずり節の上に醤油を適量、かける。その上から、熱湯を注ぐ」

『三重奏の主題』


美佐
真理


腕立て伏せ
部屋のなかで走る

ゴルフ・コース

寿司
フランス料理
コーヒー
ワイン
カルヴァドス

『消えた彼女たちを悼みつつ』

「じつは僕は、娼婦やホステスやロマン・ポルノの女性たちをひとつにまとめて大幅に希釈したような女性たちを、これまでかなり多く描いてきた。そのような小説のどれだったかに関して、この作品を映画にするなら絶対にロマン・ポルノで撮るべきだ、と書いた批評を僕は読んだ記憶がある。書いたつもりではなく、確かにそのような女性たちを何人か、僕は書いた」

「これから先の時間にむけて、たとえば小説のために、どのような女性に可能性があるかについて考えるとき、もっとも頼りになるのは、言葉の可能性だろう。惨憺たる現実とは本質的にかかわらず、したがってそれに巻きこまれてもいない女性による、言葉で書かれた会話の日本語に、僕は可能性を見ている」

「成人するまでの教育、あるいは成人してからも教育の半分は外国で受けた日本女性、つまりいまの日本という独特な場が持つ土俗性から、すくなくとも半分は脱出して自由になり得ている女性も、これからの小説の登場人物として有効だろう。」
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by space_tsuu | 2013-11-13 00:00 | 赤い背表紙(短編)
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