恋愛小説3

「時間」というものについて思いをめぐらせてみた。
ある日ある瞬間に「自分」がこの世に誕生する。その時、「時間」はすでに遥か昔からゆらゆらと揺らぎながらとぎれることなく流れている。そこに新たに「自分の時間の糸」が加わる。遥か昔からあるといっても、誰も確認できない誰のものでもない「時間」に、絡まるわけでもなく寄り添うように、時にはぴんと張りつめたり緩んだりしながら「自分の時間の糸」は伸びていく。

いつだったか、アコーディオンとコントラバスの男女ひとりづつのデュオのライヴを聴きに行った。初めて見る二人の息のあった絶妙で繊細などことなく不思議な世界に私はすぐに引きずり込まれた。
私はまるで深い森の中でふたりの演奏に出くわして心地よい衝撃を受けたような気分だった。
アコーディオンの彼女は、まるで楽器とダンスをしているように見えた。私は音と時間が作り出す旋律に静かな興奮とともに身をまかせた。
演奏が終わってから、私は彼らのCDを一枚買い、車の中で聴きながら家に帰った。すぐに車の中は、さきほど感じた雰囲気と同じ空間に変わった。家に帰ってからもほどよくアルコールの力をかりて彼らの世界観から抜け出すことなく眠りについた。
そして次の日は朝からそのCDを聞かず、仕事が終わって車に乗り込み、あたりがじゅうぶんに暗いことを確認してからCDのスイッチを押した。
曲が始まると同時に、昨日の夜が再現されたように感じた。昨晩からゆらゆらとゆっくり伸び続けている「時間の糸」が、今日一日仕事をした日中の部分だけ電球の形のようにだらりと垂れ下がり、昨日の夜と今日の夜がつながったように思えた。

音や匂いなどの五感によって、「過去の時間」は記憶の倉庫から形を変えながらひっばり出され、ほんの一瞬「今」とつながる。そして、人はそれをなつかしがったり、悔やんだりする。そんなこととは関係なく「自分の時間の糸」は先へ先へとさらに伸びていく。そしてある時、ぷつりと途切れて、あとかたもなく消えてしまう。
大きくゆったりと流れている誰にでも関係があり、そして誰とも関係のない「時間」の中に、その人の「時間」の残骸だけが、あとには残される。

b0127073_12302268.jpg


次の文章は表紙をめくったページに書かれていたものだ。「春眠暁を覚えず」だったのでしょうか。
きっと夢の中の「知ってる人」も、ゴジラが片岡さんだったら、さぞかしびっくりしただろうななどと想像したらクスっと笑ってしまった。

「ゴジラになった夢をはじめて見ました。相模湾から上がって来て富士山を踏みつぶし、噴火の熱をかかとに感じつつ東名を壊しながら東京へいき、東京タワーをへし折り国会議事堂を蹴とばし、そこから二歩で銀座四丁目、もう一歩で日本橋。地面に手を突っこみ、まさぐって地下鉄をつかまえ、引きずり出して顔のまえにかかげて観察したら、その地下鉄のなかに知ってる人がいてびっくりし、目が覚めたのです。春さきの夜の夢でした。」

----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------



『彼は結婚したくなった』

川村直樹
中原真紀子
大沢淳子
三崎名美子
高田優子
三崎名美子の母親
ジョー・ドン・ベイカーという男優
ケイ(慶一郎)
川村真佐子

銀製の写真スタンド(妹がヨーロッパの出張みやげにくれた。すっきりした造形の、ほど良いサイズの三つに開くスタンド)
重厚な造りのライティング・ビューロー
ヨーロッパ製の丸いカフェ・テーブル
白木の簡潔な丸いテーブル
ごく普通の片袖のデスク

『モネの庭のなかで』というタイトルのついた展覧会

エスプレッソ
ベーコンやハムあるいはソーセージを添えた最高の目玉焼き

片岡ワールド6つの手引書 その1
イコン、そこに宿る純粋な視線


『彼女、三十五歳、独身』

中野玲子
三輪秋子

フォード・テルスターのステーションワゴン
シトロエンのXM

ウールのソックスにハイ・カットのテニス・シューズ
ラングラーの935のジーンズ
白地にごく淡い緑色で、縦にストライプが入っている男物のビジネス・シャツのような木綿の長袖のシャツ
Vネックのダーク・グリーンの木綿のセーター
幅の広いヒールがほど良くある、紐で結ぶコーヒー色のスエードの靴
チーノのようなスラックス
木綿のシャツ
ツイードのジャケット

ガーメント・バッグ
リモアのボード・ケース

コーヒー
エスプレッソ

アトランタ・ブレーヴスのロゴとマークがプリントしてある野球の硬球

片岡ワールド6つの手引書 その2
優雅にアンドロギュノス

『幸福な女性の謎』

杉本夏子
エリカ(江利花)

ナット・シャーマン

コーヒー
ヴィッテル

レースを多用したブルー・グレーの薄い下着

はがして使うコットン・スワップ

片岡ワールド6つの手引書 その3
ホテルの室内がはなつ、やわらかい毒気


『エスケープという名の香水』

彼女



エスケープ
エターニティ
エゴイスト


片岡ワールド6つの手引書 その4
調香師としての片岡義男の処方箋


『基本を学ぶ幸せ』

三田村直子(三田村健司)
服部真吾
服部真吾の母
服部真吾の姉
服部真吾の妹


缶の冷たいウーロン茶
缶詰のトマト・スープ
紅茶
ピッツァ
コーヒー


スキタイの秘宝展

ステーション・ワゴン

「すべては時間だ、と直子は結論した。経過していく時間と、そのなかで起こって来るさまざまな変化。」
「経過していく時間とそのなかで起こり得る変化。基本中の基本のようなテーマだ、と直子は思った。これはあまりにも基本的なことであり、したがってどんな変化がそこにあっても、本来それは悲しくすらないのではないか。そのことを、自分は、この数週間のなかで、至近距離から学んだ。たったいまこの瞬間からの自分は、そのようなことを学んだあとの自分なのだ。けっして居心地の悪い状態ではない、と直子は胸のなかで言った。」


片岡ワールド6つの手引書 その5
私の外を通過する時間

『似合う口紅』

愛川尚美
母親の恵美子
姉の美恵子

これこそ紅茶、とお店の人が勧めてくれた紅茶
スコーン
お好み焼き

ケップ

余計な飾りをいっさい排除してある気のきいたグレイの、ハイレグのコットンのショーツ
そのショーツのと対になったタンク・トップ


片岡ワールド6つの手引書 その6
化粧のディスクールと、ニュー・エロティシズム
[PR]
by space_tsuu | 2013-11-20 00:00 | 赤い背表紙(短編)
<< 私の心とその周辺 恋愛小説2 >>