その日はじめてのコーヒー

彼女はキッチンに入り、ケトルに水を入れ火にかけた。

湯がわくまでほんの少しの間、どこを見るというわけではなく、また何かを考えるというような感じではなく、その場に立ったままでいた。


ふと、かたわらにあったチョコレートの箱に視線をうつした彼女は、その薄い箱を手にとった。

箱の右上には31%カカオという金色の文字が光っていた。その下に金色の線でかこまれた赤い正方形があり、中にミルクチョコレートと英語で表記されていた。

彼女はその箱を開け、中の金色の包み紙を指先で切り取り、ひとかけらぶんのチョレートを割った。

横が4センチ、縦が3.5センチで厚みが5ミリほどのそのチョコレートの真ん中には、馬にまたがった裸婦の絵が型押しされていた。

その絵をながめていると、ケトルの細長いそそぎ口から勢いよく湯気がたちはじめた。

彼女は指先につまんでいたチョコレートをいったん小さな皿の上に置いた。


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彼女は火を止め、コーヒー豆を自動で挽いてくれるグラインダーのスイッチを一人ぶんひねった。

コーヒーの香ばしい香りがあたりに瞬時に広がる感覚を鼻腔でとらえ、彼女は微笑した。

コーヒーの淹れ方として、コーヒーの粉を湿らせるお湯をのぞいて、80cc,60cc,40ccを順番に注いでいく方法を何かで読んでいつか試そうと思っていたことを彼女は思い出し、実際にそうやってコーヒーを淹れてみた。

りんごをモチーフにした白いコーヒーカップに出来たてのコーヒーを丁寧に注ぎ、さきほどのチョコレートをつまんだ。

そして、一口かじってから、コーヒーを飲んだ。

チョコレートのおいしさがコーヒーによって増幅され、またコーヒーの香りや味もチョコレートによって最大限に引き出されるのを感じながら、もう一口コーヒーを口に含んだ。

やはり美味しさは一口目が最高だと思いながら、その日はじめてのコーヒーを彼女は楽しんだ。



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by space_tsuu | 2015-06-18 00:00 | 私の心とその周辺
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