彼女は階段を登り、左に曲がって2軒目のカフェバーのドアを開けた。
こじんまりとした店内にはいくつかのテーブル席があり、何人かの客でうまっていた。入り口のドアの右側はカウンター席になっていた。 カウンターの中から「いらっしゃいませ」と、にっこり笑顔を向けたバーテンダーは、まだ世間ずれしていないような若い男性だった。 彼はアメリカの国旗を縦にしたようなシャツを着ていた。もうひとりのパーテンダーも同じものを着ていた。 彼女はカウンターに座りメニューを見た。 特別企画と書かれた箇所に、「今ならウォッカ、ジンなどのボトルをキープすれば、それで作ったカクテルが100円で飲めます。」と書かれてあった。 彼女はストリチナヤをボトルキープすることにし、バーテンダーにそう告げた。彼はどんなカクテルにしますかと聞いてきた。彼女は彼にまかせるから、最初は少し甘めのカクテルを作ってくださいと言った。 彼はうなづいて、シェーカーに氷を入れはじめた。 ほどなくココア色のカクテルができあがった。 ナツメッグが少しふりかけてあるそのカクテルを彼女はひとくち飲んでみた。ウォッカとコーヒーリキュール、そして生クリームがほどよく溶け合ったほんのり甘い味にナツメッグの香りがアクセントになっていた。 彼女は笑顔になった。彼も笑顔になり、「バーバラというカクテルです」と彼女に言った。 ボトルキープをしたこともあって、彼女は仕事帰りによくその店に立ち寄るようになった。そして、ウオッカで様々なカクテルを作ってもらい楽しんだ。ウォッカはすぐになくなったので、ジンもボトルキープしてみた。 彼と彼女は次第に親しくなり、いろんな所に出かけたりした。ある暑い夏の日にダット・サンで誰もいない砂浜まで降りていき、クーラーからゴードンのジンとトニックウォーターと氷、そしてグラスを取り出し、ジントニックを作り、水平線を見ながら乾杯した。 さほど遠くない場所に風力発電のプロペラが回っているのが見えた。 今では、ふとした時に彼女が彼にバーバラを作ってみたりする。 ---------------------------------------------------------------------------------------------------
by space_tsuu
| 2003-12-22 00:00
| 私の心とその周辺
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