あの影を愛した

『片岡義男の書く小説の世界は、現実からいつも十センチほど浮き上がっているというイメージがある。
これを軽すぎると見るか、あるいは面白いと見るかで片岡氏のファンは決る。』

これは、水上洋子さんが書いたあとがきの冒頭だ。水上さんは、後者だそうだ。そして彼女は、小説を未来のほうから投げかけてくる企画書にたとえている。
企画書というのは、過去の統計や現実のマーケティングを根拠に書かれてきたし、そういう小説もあるが、そこにはやりきれない過去の暗い事実や、現実の厳しさを見つめさせるものがあり、そこから教訓や諦観のような悟りを開いたりしたと説明している。
それとは対照的な未来からの企画書が、片岡さんの小説だというわけだ。
小説とは、人々の生き方やある欲望の形を暗示し、占うための一つの企画書のようなものだとするなら、フィクションである以上、未だこの世に現れていない世界を描き出すべきだとも書いている。その考え方に、私も共感する。

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『小説というつくり出された世界が、新たな現実を作っていくことのほうが私には面白い』という文章で、あとがきは締めくくられている。
この小説は平成三年に発行されているが、それから十五年が経過している。
片岡さんの小説を読んだ人たちが、私を含めて、片岡さんが投げかけてきた未来に今立っているとするなら、それぞれどんな現実の中にいるのだろう。自分が思い描いていた理想の自分に完璧に近づくことはできていなかもしれないが、少しだけでもヒントをもらって、それが何かの形として表われているなら嬉しい。



一章 プールに降る雨

美佐子
宮下百合子
雪子
亜矢子
三宅
三村

スープ
自分ひとりのための昼食
熱いコーヒー
ミネラル・ウォーター
熱いマンデリン
焼き鳥
缶ビール
魅力的に手を加えたサーモン
帆立貝と蟹肉の、ロクフォルト・チーズによるグラタン(手を加えたほうれん草が下に敷いてあり、細かく刻んだトマトにはヴィネグレット・ソースがからめてあった)
フォアグラ(ソースには蜂蜜がきかせてあった)
レンズ豆のスープ(コンソメのゼリーが浮かべてあった)
鱸と鯛の肉を細かく砕き、食べることのできる紙で包み、揚げたもの(揚げた感触と味に、グレープフルーツのソースが美しく調和していた。グレープフルーツの三日月とえんどう豆が、皿の外周に配してあった)
フィレ肉の網焼き
チーズ

ブラック・コーヒー色の競泳用の水着
大きな灰色のタオル

ブルガリア生まれの音楽家、ミルチョ・リヴィエフのCD(カウントメベイシーのために作曲した曲からはじまり十二曲で終っている。十一曲目は『松本』第二のホームタウンだというノース・ハリウッドを意味する『N・H』)
アイルランドの歌手、メアリー・ブラックの、三曲目のソロCD
ネッド・ドヒニーの『私たちのような愛』

ユリ・シュレヴィッツの『夜明け』『レイン・レイン・リヴァース』という絵本
M・B・ゴフスタインの『私たちの雪だるま』
イーヴ・メリアムの『誕生日のドア』(ピーター・ジョンストンが絵をつけた)

二章 素足で小川をわたる

水木

簡単な、しかし魅力的な昼食

三章 一杯のコーヒーから

緑川

ドゥミタス
ミネラル・ウォーター
コーヒーをポットに一杯

ステーション・ワゴン
国産の乗用車
セダン
ワン・ボックス・カー
四トン・トラック

四章 花嫁が語る、花嫁の父も語る

島本雪子
後藤敏彦
池田亜矢子

ヘレン・ノリスという女性作家の『鎌のかたちをした月と歩く』
(ローラ・ケンドール、ミシェル、ミシェルの父親、ローラの息子)

コーヒー
エスプレッソ

ポケット・ナイフ

五章 私は潮騒からはじまった

幌を降ろすことの出来るスポーツ・タイプの車

ミニ・バーのスコッチを水で割った飲み物
ミニ・バーの小さな酒瓶
ブランデー
小ぶりな緑色の林檎

六章 自分の花をみつけた

紅子
水野
三沢直人

カンパリ・オレンジ
エスプレッソ
七章 神の子はすべてリズム

南村紅子
菜菜子
三沢菜穂子

コーヒー

『神の子はすべてリズムを持つ』という曲

八章 あの影を愛した
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by space_tsuu | 2006-09-27 00:00 | 赤い背表紙(中編)
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