Ten Years After

片岡さんの小説には、時々マンションなどの間取りが詳しくわかるような描写が出てくる。たとえば次のような感じだ。

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『ロックを解放し、ドアを開いた。なかに入った。明かりがひとつも灯っていず、なかは暗かった。
ドアを閉じ、靴を脱いだ。うえにあがり、壁のライトスイッチをオンにした。玄関口の明かりが灯った。
みじかい廊下が、玄関口から直角に奥にむけて折れ曲がっている。ダイニング・キチンのドアと洗面・浴室のドアとが斜めにむきあっている廊下のつき当たりに、ドアがふたつならんでいる。
右のドアは寝室、左のドアは居間だ。彼は、居間に入った。明かりをつけた。
十二畳のスペースのなかに、本棚を中心にした収納棚、オーディオ装置、小さなライティング・デスク、作業用の横に長い机、それにカンヴァスのデッキ・チェアなどが、要領よく配置してあった。』

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私はこういう描写がとても好きだ。読みながら、その空間の中を歩いているような気持ちになる。部屋の香りや光の加減、壁紙やドアの形、床を歩く感触までを想像の中に楽しむ。想像の中の部屋は、まるでホテルの空間のように思える。日常生活にあるようなごちゃごちゃとしたものは一切なく、何も散らかっていない。そのような空間で生活したいと思うが、現実では、なかなかそうはいかない。
だから、時おり、ホテルに泊まって、小説の中の空間を現実の空間と交差させて遊んでみる。
次にホテルに泊まる時は、最後の解説に出てくるチョコバーでも買って、ひとりホテルの一室でチョコバーの甘さにひたってみようかと、思いついた。




村上邦彦
木原達也
田崎博子
西尾隆吉

十二オンスの缶ビール
コーヒー
ざる蕎麦
熱いブラック・コーヒー


二二◯キロの重量がある750ccのオートバイ
アメリカン・タイプの750cc
クーペ
四輪駆動の一トン・トラック

ピアノ・トリオによるジャズ

小型のレター・ペーパーのパッドをはさんだ皮のノート(レタ−・ペ−パ−は淡いカナリア色で、ほんのりとブルーの横罫が幅広にひいてあった)
クロームの銀色に輝く部分と黒いプラスティックの部分が半々になったバランスのいいソフト・ティップのペン(インク色は目のさめるようなアクア・マリン)


「なんという色なんだろう」
「さあ。トープかしら」
「トープはもっとブラウンに近いだろう」
「幅は拾いのよ。トープの色の幅は」
「うん」
「淡いブドウ色ね」
「そうだな」
「よく熟したブドウの丸いひとつぶぜんたいを。霧氷が薄くつつんでいるような色」
「なるほど」
「ね」
「アイス・グレープ」
「氷がかった、ということだから、アイシー・グレープだわ」
「アイシー・グレープのコットン・セーター」
「着心地が良さそう」
「いま着てるものは、すべて着心地がいい」
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by space_tsuu | 2006-06-06 00:00 | 赤い背表紙(中編)
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