宝物に伸びる影

仕事場のあるマンションの裏側の駐車場のスペースに車を停め、彼女はマンションの入り口のフロアに通じるドアに向けてゆっくりと歩いていった。通用口のようなそのドアを開けると、正面玄関に向かって左側の壁の半分ほどの位置に各部屋の郵便受けが設置されている。

彼女は、自分の部屋の番号の郵便受けに何か入っていることに気づいた。
近づいて確認してみると、オレンジ色のクッション入りの封筒が、投函する箇所から、ややはみだしていた。
彼女は、大きなその封筒を手にとり、正面玄関から外に出た。外に出て、右側へ歩くとすぐに自分の仕事場である濃いグレーのドアがある。ドアの鍵を開けつつ封筒を見てみると、オレンジ色の封筒のまん中に白い紙が横に貼ってあった。そしてそこに宛先である自分の名前がブルーのインクで書いてあり、その下に差出人の住所と氏名がやや小さめに印刷してあった。

b0127073_14154964.jpg


その名前を見た瞬間、彼女は自分の目を疑った。ドアを開けるための銀色の縦長のバーに手をかけたまま、彼女は呆然とした。すぐに我にかえり、ドアを開け、部屋の中のカウンターに荷物を置き、そのオレンジ色の封筒の名前をもう一度確認した。なにかのいたずらだろうかと一瞬思ったが、すぐにその思いをふりはらい、こわれものを扱うような手つきで、封筒を開けた。
中からは一冊の写真集が出てきた。表紙全体は写真になっていて、表紙全体は写真になっていて、淡いピンク色の帯が本の下半分を占めていた。そしてそこには「東京は被写体の宝庫だ。」と黒い文字で書かれていた。その帯をはずし、表紙の写真を見ると、道路の縁石部分が本の左下から中央上部に向かって伸びていた。そしてそのすぐ右側に電柱の根元があり、その前にある雑草の緑がアクセントになっていた。左側から右ななめ上に向けて、なにか建物か木々の影が写っていた。電柱の右側にも同じように電柱自身の影が伸びていた。影は手前から奥に向かうにつれ、その色を濃くしていた。この場所に立ってみたいと、ふと彼女は思った。

b0127073_1416479.jpg


この写真集は、まだ発売前のものだった。
いきなり天から授かったプレゼントのように思えた。
差出人は、彼女が大好きな作家だった。何度かその作家に手紙やはがきを出したことはあるが、まさかこんな形で、自分に対して返事がくるなんて思いもしていなかった。
写真集をプレゼントしてもらえるなんて、夢のようだった。

厚い写真集を両手でかかえながら、これは私の宝物だと彼女は思った。しかし、本当の宝物は、この作家が自分のことを思い出して、こうして写真集を送ってくれたというその気持ちこそが宝物なのだと、ブルーのインクで書かれた自分の名前を見ながら、彼女は微笑した。

---------------------------------------------------------------------------------------------------
[PR]
by space_tsuu | 2006-03-24 00:00 | 私の心とその周辺
<< 結婚のヒント 上り坂の地平線 >>