夏と少年の短篇

ずっとやりたかったことをひとまず終えてしまうと、祭りの後のようなどことなく寂しいような空虚な気持ちになる。そんな時には片岡さんの小説がいいと思い、手にしたのがこれだ。
まだ時おり春の雪が舞っている中で読む真夏の小説は、心の中に夏のまぶしく暑い陽射しを呼び込んでくれる。
その中に、理想的なあり方を提示してくれているような文章を見つけると嬉しい。

「小夜子は人に対して冷たいのではなかった。自分の息子も含めて、すべての人に対する距離の取りかたに、彼女独特のものがあるだけだ。
粘ったところのまったくない、あくまでもさらっとした距離感であり、なにごとにせよ相手に無理に引き受けさせることをいっさいしないかわりに、相手に対する過剰な期待もなにひとつ持たないという、わかりやすいと言えばたいへんにわかりやすい距離の取りかただ。」

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さらに、次に抜粋した文章は、子供の頃に屋根に寝そべって空をながめた時の記憶を引っぱり出してくれた。

「これ以上なにもいらないと思いつつ、裕一は大きくのけぞり、後方の空を仰ぎ見た。ちぎれた白い雲がひとつ、かなりの速度で海岸と平行に流れていた。いまの自分がさらになにかを望むとするなら、あの雲を追いかけることくらいだと、裕一は思った。空はふたつあった。いま彼が見ている空と、裕一の頭のなかにある空のふたつだ。どちらの空も、夏の朝のまっ青な広がりだった。その空を、白くちぎれた雲が、追う人にとって快適な速度で、どこかにむかって流れていった。」

片岡さんの小説では、時おり、こうした食事についての文章を読むことができる。
そういえばそうだった。固ゆで卵とエスプレッソを忘れていたではないか。
読んでいたら無性に食べたくなってきた。明日の朝に真似してやってみようか。

「朝食が面白いよ、恵子さんは。エスプレッソと固ゆで卵なのよ、いっつも。毎日、毎日、おんなじ。朝食だけはね。もうずっとそうなんだって。エスプレッソ・マシーンというのがあって、小さなカップにエスプレッソが二杯、同時に出来るの。カップは三十個くらいあって、おなじものはないの。みんなちがうの。どれとどれの組み合わせにするか、というところから恵子さんの朝食は始まるのね。卵は固ゆで。ひとつだけの日もあれば、ふたつのときも、そして三つのときもあるの。日によってちがうのよ。固ゆで卵にタイミングを合わせてエスプレッソを二杯作って、食べるわけ。ふたつのカップを左右に置いて、両手に交互に持って飲むのよ。そして卵。スプーンの縁で叩いて切れめを入れて、ふたつに割るの。そしてスプーンですくって食べる。塩を少しづつつけて。最高なんだって。高校生になったら、私も始めるから。ほかにも野菜やトーストを食べるんだけど、まず最初は、ほかのものは邪魔くさいからどかしておいて、エスプレッソと固ゆで卵を恵子さんは楽しむのよ。ほかのものをいっしょに食べると、余計な味が混じって嫌なんだって。エスプレッソと固ゆで卵を食べ終わってしばらくしてから、野菜とパンを食べてる。パンは固めのを二枚、かりかりにトーストして、なんにもつけずに」



『私とキャッチ・ボールをしてください』

伊藤洋介
遠山恵理子
伊藤小夜子
恵理子の父親

『夏はすぐに終る』

中尾晴彦
木村真理子

ステーション・ワゴン

焼き魚
煮た魚
ほうれん草の胡麻あえ
ひじき
もずく
天丼
野菜の煮つけ

「きちんとしたものを調和よく食べないと、まずどこより先に、脳が衰弱するのよ」

『あの雲を追跡する』

坂本裕一
西野亜紀子
坂本裕子

『which以下のすべて』

佐々木祐一
風祭百合絵
山形多恵子
佐々木祐子


『おなじ緯度の下で』

西野哲也
松原愛子
西野哲朗
松原美代子
後藤三枝子

葡萄の味と香りがするという、濃い紫色のグレープというアイスキャンディー
かき氷
アイスクリーム
ところてん
氷白玉

『永遠に失われた』

福島邦子
明美の父親
邦子の母親の寿美子
少年

ワイン



『エスプレッソを二杯に固ゆで卵をいくつ?』

神崎里里葉
加藤帆奈美
恵子
お父さん

焼き蛤
エスプレッソ
固ゆでたまご
野菜
パンは固めのを二枚、かりかりにトーストして、なんにもつけない

「今日も暑そう」
里里葉が言った。
「だから私はうれしい」恵子が答えた。
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by space_tsuu | 2011-03-11 00:00 | 白と青緑の背表紙
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