パラッド30曲で1冊

これは片岡さんの本の中でも特に大好きなもののひとつだ。ショートストーリーを「バラッド」にたとえて30編ある。
この30編のタイトルをながめているだけでも楽しい。どこか片岡さんが書く詩を読んでいるようにも思える。
片岡さんの言葉の選び方に感銘を受け、普段の生活の中でも様々な状況に応じて無意識に言葉を探し出し、組み合わせて脳内一人遊びをしている自分に気づくことがある。
「林檎が燃える、あるいは飛ぶ」というタイトルがあるが、この本にめぐりあっていなかったなら、私の頭の中で、林檎が燃えたり飛んだりする様子なんて想像することができていただろうか?
もともと私は言葉遊びが好きなようだ。子供の頃におぼえた「じゅげむ」だけは今でも言える。
大人になった今は、片岡さんのおかげで、さらに言葉遊びに拍車がかかってしまった。
とても楽しい。

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この本は、間々に片岡さん自身が撮った写真が添えられている。
私の大好きな形体だ。
スペアミントの中身を出して並べて撮った写真。小さな白い昼月。ホテルのベッド。空、庭に咲いている赤い花。青空に飛行機雲。銀色に光る富士山の模型。
最近、片岡さんは東京の街のあちらこちらを撮って写真集も何冊か出しているが、この「バラッド30曲で1冊」に載っているような写真もまた見てみたい。
片岡さんはきっと「謎」を撮る人なのだ。「謎」でなければ撮る必要はない。カメラのファィンダーごしに「謎」をじっくり観察し、あるいは瞬間的に構図を決め「謎」を切り取る。
そして切り取ったあとの「謎」を見ながら、さらにその「謎」について思いをめぐらせる。
「謎」についてあれこれ考えていると、私もいつしかその「謎」にとりこまれ「謎」の一部となっていく。

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『ベッドが三つある部屋』

「まんなかのは、ぼくたちふたりの、共通の立脚店だな。通底するコンセプトだ」

『これはメロドラマ』

セダン

ひと組の男女は、それだけでメロドラマだ」

『ブルーの選び方』

ブルーのクーペ

「私の体を切ると、赤い血じゃなくて、ブルーの血が出てくるといいわ」

『理想的な窓』

空だけが見える窓を見ながら、空だけが見えるのは理想的な窓だと、彼は思った。

『窓にカーテン』

エスプレッソ
紅茶

「カーテンがないと、裸の窓になってしまうから」

『昼寝』

マーシディーズのセダン

『思い出の夏』

パンケーキ

『彼女と彼 1』

コーヒー

クーペ

「私がここで服を脱ぐところを、見ていてほしいの」

『彼女と彼 2』

ステーション・ワゴン

『電話をかけるだけ』

クーペ
セダン

『コパトーン』

彼女は、毎日の朝刊と夕刊から、天気図を切り抜いている。一日分の二枚の天気図
をB5の紙にコピーし、ファィルしている。一年たつと一年分の天気図が、彼女の手も
とに残る。

『彼と別れた彼女』

白い半袖のシャツも平凡なものだった。強い陽ざしを受けとめている様子を、すこし
離れたところから見ると、そのシャツはしろに見える。しかし、近くでよく見ると、
純白ではなく、真珠の色だった。

『ケチャップはあまりかけない』

普通のフル・サイズのセダン

チーズ・バーガー
ケチャップの瓶

『セーターを脱ぐ』

裏がえしにひっぱりあげたセーターによって、胸から頭まですっぽりとおおわれた状
態で、彼女は腕の動きを止めた。セーターごしに、窓を見た。

『飽きたら言って』

エスプレッソ

「私に飽きたら、言ってね。すぐにいなくなるから」

『海の香りと電話ブース』

温かさといっしょに、潮の匂いも、電話ブースのなかにあった。

これといって用のあるわけではない電話をしばらく続けているあいだ、彼女は、電話
ブースのドアを閉じては開き、開いては閉じた。

『ふたりでいても淋しい』

ごく軽い酒

『切り花』

「枯れたら捨てればいい」

『いつも小道具』

火のついていない煙草


『交差点の横断歩道』

低い位置にある太陽が放つオレンジ色の光にひっかかった彼女の体は、交差点のなか
にむけて長くその影をのばしていた。

『桜前線』

銀灰色のセダン

コーヒー

『雪が降る』

セダン
クーペ

『小さな花』

「この花は、死んだ私よ。死んだあとの私を、いまあなたは見ているのよ」

『林檎が燃える、あるいは飛ぶ』

小さな赤い林檎

『来てくれた彼女』

コーヒー

「すぐに抱いて。そのほうが、興奮できるから」

『日曜日の白い月』

やがて暮れる静かな十一月の空に、月の丸さもまた静かであり、白さはいまの自分の
白さだと、彼女はふと思う。

『縛られてみないか』

「想像と現実とでは、まるでちがうだろう」
「想像でうまくいかなければ、現実でうまくいくわけないわ」

『ベッドに戻れ』

コーヒー

「今日は冬至よ」
彼に伝わっていく体温とともに、彼女が言った。

『微笑の研究』

銀紙でくるんである一辺が十五ミリの直方体となっている小さなキューブのチーズ
大衆的なアール・デコの造形によってすっきりまとまっているグラスに入ったミルク
クラッカーの見本のようなクラッカー

「だから、人がなにかに対してにっこりと微笑するときには、その微笑は、微笑の対
象に対する受け身の反応であると同時に、その微笑する人を気分のいい、快適な、幸
せな状態にするという、能動的な機能も果たしているのよ。微笑すると、顔のなかに
あるいろんな筋が、複雑に血管を刺激して、その刺激の直接の結果として、脳に血液
が送りこまれるの。この血液が、脳のなかの血液の温度を上げて、そのことが、快適な
気分をつくる神経反応を引き起こしていくの。しかめっ面をしても、脳への血液の流
れかたがはっきりと変化するし、口づけも効果が大きいのよ。つくり笑いって、ある
でしょう。無理につくってみせる微笑。この場合は、ほんとに心から、ぱっと即興的
に微笑した場合に比べると、血液の流れやそれら対する脳の反応のしかたが、まるで
ちがうの。だから、この点を研究していけば、微笑の対象がそこになくても、ひとり
で自分を快適にさせるための微笑のしかたの法則のようなものが、きっとわかってく
るはずなのよ」

『雨の夜』

「顔に雨を受けとめ続けながら、その雨を口のなかに入れながら、彼と抱きあって長
い口づけをしたら、どんなふうになるのかしらと、そういう夢なの」
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by space_tsuu | 2012-04-21 00:00 | 赤い背表紙(短編)
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