and I Love Her

『なにをしているというわけでもないけれど、なにか自分好みのことをしている、みじかい不思議な自由時間。誰もが体験している時間ですし、とても大切なひとときなのですが、すぐに消え去り忘れてしまいます。こんな時間をひとりの女性の一年間のなかからひろい集めたのが、この本です。愛する彼女の伝記だと、著者は言うのですが。』

扉の文章だ。

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片岡さんの本を読むきっかけになったのが、この『and I Love Her』だ。
書店でなにげなく手にとってぱらぱらと読み始めた時の静かな衝撃を今また思い出している。
少しだけページの上部に余白があり、文字の色はダークブルーだ。
ひとりの女性の行動をただ淡々と書きつづっているだけのような文章を私はこれまで読んだことがなかった。
「なんだ、この小説は」と思いながら、買わずにはいられなかった。
通勤中の電車の中やアパートの部屋で夢中になって読んだ記憶が蘇ってくる。

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ショーツ一枚に春のハイヒール・サンダルだけの彼女が鏡の中の自分を見ながら冷たいビールを喉に流しこむ。
微妙にくすんだオリーヴ・ドラブ色のダッジ・チャレンジャーに塗れてはりついている桜の花びら。
ビーフ・ヌードルスープ、タバスコを数滴ふりかけてかきまぜたブラディ・メリー、バッファロー・グラスという名の草の香りをつけた、不思議な味のするウォッカ。
完全に自由だった時間の証明のような陽焼けのあと。
ゴム動力で飛ぶ模型飛行機。
読みすすんでいくうちに私はこの本の世界の中に完全にとりこまれてしまった。
そして、まだいぜんとして片岡義男という世界の中を探検しつつ、いつまでもそこから出たくないような気持ちが続いている。
この時おそらく、私の中に、すすむべき道の小さな芽が生まれたのだろう。
私の理想の終点は漠然と決まった。

この『and I Love Her』の主人公の女性は実在の人物だそうだ。
今どうしているのだろうか、とふと思ったりもするが、この本の中の「彼女」は、私の中では永遠なのだ。




彼女
スーザン・ジェーン・モーテンスン

12オンスの罐ビール
コーヒー
ピーナツ・バター

熱い紙コップに入ったコーヒー
ビーフ・ヌードル・スープ(エッグ・ヌードル、ビーフ・ストック、セロリ、人参、
コーンスターチ、ビーフ)
かすかにライムの香りをつけてあるうっすらと緑色をしたサイコロに切ったゼラチン
ミルク
ブラックコーヒー
ブラディ・メリー(分厚い三日月に切ったレモンとタバスコを数滴ふりかける。ウス
ターソースは加えない)
アイス・ウォーター
まっ赤に色のついた大きいリンゴ
大きさは同じくらいだが淡いグリーンと淡い赤とが微妙に溶けあおうとしている途中
のような色のリンゴ
ピザとアイス・コーヒー
タバスコの小瓶
バッファロー・グラスという名の草の葉の香りをつけた不思議な味のするウオッカ
きつねうどん
紙コップのブラック・コーヒー
陶製のすこし深めの皿にアイスクリームをとりわけ、その上にプエルトリコの
ホワイト・ラムを注いだもの
コーヒー・バッグのコーヒー
オールド・ファッションドのグラスにライムをしぼったドライ・ジンのオン・ザ・ロッ
クス
自動販売機のブラック・コーヒー


淡い草色のきれいな光沢のあるショーツ
細く美しいヒールのあるすっきりとしたサンダル
春先の季節にぴったりの生地と色のスーツ
女性兵士用のコットン・ポプリンのシャツ
白い半袖のTシャツに淡いグレーのショーツ
オレンジ色の長袖のTシャツ
こげ茶色のビキニ
ショートパンツ
ヒールの高い夏のサンダル
オレンジ色に近い赤地に、濃紺と白とで模様が描いてあるバンダナ
スリップ
色あせたブルージーンズ
スエット・シャツ
はき古したブルージーンズと白い長袖のシャツ
長袖のTシャツとショーツ
コーデュロイのジーンズにセーター
ブルージーンズにシャツ、そして薄手のシェトランドのセーター
裏地がキルティングになっている頑丈な皮のジャンパー
はきなれたブルージーンズと、コットン・フランネルの長袖のシャツ
トレンチコート
ショーツに買ったばかりの春の長袖のシャツ

オリーヴ・ドラヴ色の一九七四年にクライスラー社が出したダッジのチャレンジャー
という名前の2ドア・ハードトップ(360キュービック・インチの排気音を持ったオー
ヴァーヘッド・ヴァルヴのV8エンジン)
#それまでのチャレンジャーには2ドア・ハードトップ・クーペの一種類しかなかった
が、この一種類が、スタンダードとラリーのふたとおりに分かれた。ラリーは、サス
ペンションをかたくしたトラック・レーサーだった#
フォードのマスタング
ヨーロッパ製のオープン・カー
オートバイ
赤いクーペ

アヴォカード色の冷蔵庫
21インチのTV
小さな黒いプラスチックのケースにおさまったクオーツの時計
『ホノルル・スター・ブレティン』という名の英語の新聞
ゴム動力で飛ぶ模型飛行機
アルミニウムのボトル
固形燃料のタブレットの入った箱
ごく簡単なつくりの折りたたみ式の金属製のストーヴ
シエラ・カップ
オイル・ライター

「風が、素敵」
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by space_tsuu | 2010-02-26 00:00 | 赤い背表紙(中編)
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