私はいつも私

三年続かなかった結婚生活に終止符を打ち、離婚が成立した彼と彼女だったが、離婚した当初はもう会うこともないだろうし、二度と会わなくてもいっこうにかまわないという気持ちから、ほんの数カ月の間に、会いたくてたまらなくなるという気持ちの変化に耐えきれなくなり、会うことになった。

会ってみると、なぜ離婚してしまったのかのかという質問が彼の心の中に広がっていく。そして、結婚したということ、そのことだけがいけなかったのだと気づく。
結婚など必要ではなかった。結婚する以前の関係をそのまま続けていればよかったのだと確信する。

ある日、夕食を食べながら、彼女がずっと焼き鳥を焼き鳥屋さんのカウンターで食べることに憧れていたと話す。
「なぜ僕に言わなかったんだ」
「言わなかったことって、おたがいに多いのよ」
と彼女は言う。

b0127073_18293127.jpg


このふたりの離婚の原因は、この会話のなかに出てくる「言わなかったことって、おたがいに多いのよ」という部分だ。いくつかあるなかで、彼女が彼に対して、一番ひどいと思ったことは「おにぎりの話」だった。

それは、彼の仕事仲間の女性が「人に言えない秘密」というテーマで連載を書かなくてはいけなくなったので、彼にそういう秘密を教えてほしいと言われた時に、彼は自分の奥さんではなく、別の女性の節子さん、あるいは節子さんのような人におにぎりを作ってもらって食べたいと言った。
その会話の中で、おにぎりには性的な意味があって、お米だし、形も生命の素のようであり、口説いてホテルの部屋へいって、というようなことではなく、もっと深い、根源的ななにかなのだと仕事仲間の彼女は言う。

そのことを仕事仲間のその女性が彼の奥さんに、ごく軽い世間話のつもりで、おにぎりに隠された深層心理的な性の世界を、面白く強調して語った。
それを聞いた彼女は、自分とはまるっきり違うタイプの女性にそんな気持ちを密かに持っていて、奥さんである自分にはおにぎりなど作ってもらいたくはないと、自分以外の人に平気で言う人に耐えられないということが離婚の原因のきっかけだった。

このストーリーを読んで、私は自分の中にあったモヤモヤとしていた霧が晴れたようだった。
私は以前から、人がにぎったおにぎりを食べるのがどうも苦手だった。
母親や小料理屋さんで食べるおにぎりは別として、だれか知り合いの作ったおにぎりだ。
その人を嫌いだからということではなく、おいしいとかおいしくないとかそういうことでもなく、何か違和感があった。
それは、きっと、おにぎりが性的なもので人間の本能に関係してるものだからなのかもしれない。
小料理屋さんで食べるおにぎりは、おにぎりではあっても、またちょっと意味合いが違ってくるので平気なのだろうか。



「彼女のリアリズムが輝く」

中村麻美子
江崎大輔
森本卓也
三田村千景
島津直子

コーヒー

銀色の美しいクラシックなホイッスル

「クレイジー・ハーツ」

大久保幸夜
藤沢昭彦
中村紅子
稲村美夜子
三崎芙美子
三崎健太郎

国産フルサイズのセダン
タクシーよりも上でリムジーンとは言えないような黒いセダン
ステーション・ワゴン

ハイ・テク凧

「人のハートは、どれもみな、すこしずつ確実にクレイジーだからよ」

「継続は愛になるか」

西本正彦
上村樹里子
高野

紅茶
エスプレッソ

八気圧の蒸気のエスプレッソ・マシーン

「とにかくメロディを聴かせてくれ」

島田健司
石原
川崎美也子

フランス料理
コーヒー
(フレンチ・ローストの、こくと深みのある、濃いめのコーヒーです)と注釈がつけて
あるデミタス
お茶

レンジ・ローヴァー
ランクル
エンジンはBMWのベルトーネの四駆

アート・ペッパー

「私はいつも私」

五十嵐優子
北村
真理子
節子

焼き鳥
ギネス・スタウト
エスプレッソ
カフェ・オレ
おにぎり

「おにぎりって、性的でしょう。形だって生命の素のようだし。
おにぎりには性的な意味があるという話を、以前、どこかで読んだ
記憶があるわ」
[PR]
by space_tsuu | 2004-03-22 00:00 | 赤い背表紙(短編)
<< 雨のなかの日時計 キャンベルの赤い缶 >>