缶ビールのロマンス

地方都市の国道でオートバイ事故をおこして死亡した愛する男性に、さようならと告げるために、彼女は一年かけて限定解除の免許を取得した。
そして、美しいライディング・スーツを着て、彼女は650ccのオートバイで事故現場へ行き、ガードレールのわきに立って手を合わせ、彼にさようなら、と言った。
「オートバイに乗ることも、これでもう二度とないと思うわ」と言う彼女のストーリーを読んで、これもまた正しいオートバイの乗り方なのかもしれないと思った。

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「缶ビールを二本ください」
と、ぼくはおばさんに言った。
「はい。缶ビールを二本」
おばさんはそう言い、店の奥へ歩いた。ガラス・ドアのついた冷蔵庫の前で立ちどまり、おばさんはふりかえった。そして、
「お銘柄は?」
と、きいた。
ガラス・ドアのなかに最初に目についたブランドを、ぼくはこたえた。

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ブランドは何なのだろうかと思う。読む人それぞれに自分の好きな銘柄が浮かぶことだろう。
缶ビールを飲む時、私はいつもこのタイトルを思い出す。そして、冷たいロマンスをひと息に喉にながしこむ。



野村祐介
井上真美子
三沢純子

芳ばしいコーヒーの香り
ブリストル・クリームをロックスで
シェリーのオン・ザ・ロックスで
ダージリン紅茶
苺のショートケーキ
上品なティーポット
受け皿に乗った華奢なカップ
ふたがドームのようになった、くもりガラスの砂糖つぼ
おなじようなガラスによる丸い灰皿
小さなミルク・ピッチャー
おもちゃのようなクッキーをいくつか乗せた、貝がらをかたどった皿

ラジェンダ・モデルヌの見開いた二ページが四日分のスペースになっている手帳
オリーヴ・ドラブ色の寝袋

『缶ビールのロマンス』

中川真知子

缶ビール
三本ごとにブランドの違う缶ビールが二ダース

十六年前の国産の450ccのオートバイ

『ある日の真夜中』

尚子
智子
章子

ジン
キール
辛口の白ワイン
ジン・トニック
ギムレット
ジン
ジンのペリエ割り

『男友だち』

ルーム・サーヴィスでとった酒

『エクストラ・ドライ』

佐原友美
佐原和彦

エスプレッソのマシーン
エスプレッソ
エクストラ・ドライのジン

『さようならの言いかた』

高野裕二
中野恵理子

コーヒー

2サイクルのオートバイ
4サイクルの650cc
二○年ちかく昔の650ccで直立2気筒の4サイクル
250ccの単気筒
旧式な650cc
四輪駆動のステーション・ワゴン

『僕と寝よう』

山根三郎
秋本美紗子

林檎の香りのする紅茶
焼き鳥
ビール
辛口の冷や酒
端正な白ワイン
鶏の水炊き(白く濁った、熱いスープがおいしい)
ニラのおひたし
串にさした美しい色のささ身(巧みにあっさりと焼いた焼いて、
身のうえにはすりおろしたわさびをすこしずつ乗せてある)
やわらかいレヴァー(ふっくらとしてたれがよくまわっている)
砂ぎも
鶉の卵
ネギ巻き
つくね

鳥ガラのスープ
鳥の尾てい骨の部分の骨付き肉
見るからに焼き鳥らしい雰囲気のある串
(肉のほかにネギや緑色のとうがらし、しいたけなどが刺してある)
香りが豊かでちゃんと緑茶の味がするお茶
エスプレッソ
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by space_tsuu | 2008-10-31 00:00 | 赤い背表紙(短編)
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