表参道の地下鉄から

時計のデジタル表示を見て、イベントが始まる時間には、遅れてしまいそうだと彼女は思った。
地下鉄は表参道の駅に着き、ドアが開いた。
降りようとした瞬間に、彼女は見覚えのある男性に気づいた。
彼は軽い足取りで地下鉄の階段のほうへ向かった。
彼女が声をかけようかと迷っている間に、すぐさま人の波が彼と彼女の間になだれこんだ。

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彼女は彼を見失わないように気をつけながら、程よい距離を保ったまま、彼の後に従った。地下鉄から地上へ出る階段をのぼりながら、追いつこうと思えばすぐにでも追いつける距離を、彼女は彼の歩調に合わせるようにしてそのままキープした。
彼女は彼の軽快に歩く姿を観察しながら、彼と自分との間にある距離と歩くスピードを心地よく感じていた。
しばらくすると行く先の信号が赤に変わった。
彼女は少し緊張しながら、信号待ちをしている作家に声をかけた。
作家は、一瞬驚いたような表情をしたあとで、
「遠いところをわざわざありがとうございます」
と言ってくれた。
彼女は「来たかったので」と一言だけこぼれるように言うのが精一杯だった。
ふと彼は「僕の前を歩いてください。後から見ていますから」と言った。
彼女は照れくさいのとはずかしいのが入り交じり、「道がわからないので」と言い、そのまま並んで歩いた。

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ふたりはぽつりぽつりと話す程度で、歩く速度はずっと一定したまま、いつしかカフェの階段の前に到着した。
彼女はお先にどうぞと手振りで階段を示したが、彼は彼女を先にうながした。
彼女は緊張しながら階段を降りた。そして、彼があとに続いた。
午後のあいまいな時間に、その日のイベントが始まった。

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by space_tsuu | 2008-06-24 00:00 | 私の心とその周辺
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