先月は空からながめた

梅雨があけたすぐの連休最終日に、彼女はオートバイで高原の風力発電機を見に行くことにした。
穏やかな海沿いを南下し、途中から無料の高速道路に乗った。
ところどころのフェンスの切れ目から海が見えるたびに、ヘルメットの中の表情がかすかな微笑に変化しているのを自覚しつつ、彼女はアクセルを一定に保った。
高速の出口近くで、目の前に巨大なプロペラがいくつも立ち並んでいる光景が目に飛び込んできた。彼女は顔全体に笑顔が広がるのをおさえることはできなかった。
一般道に降りてから、彼女は海沿いの細い道に沿って走ってみた。
カラフルなビーチボールや浮き輪とともに海水浴客たちが、夏の恩恵を思う存分楽しんでいる様子をながめながら、自分がこうして海水浴に来たのはいつが最後だったのだろうと思ったら、ふとスイカの香りが漂ったような気がしたが、すぐにそれは消えた。

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高原の方向を示す標識どおりに、彼女は左折した。
高原へ向けて、いくつかのカーヴをこなすと、大きなプロペラとともに牧場が見えてきた。
牧場にオートバイを停め、彼女はしばらくそこにいる牛や羊を観察した。売店にはたくさんの観光客がひしめきあい、ソフトクリームを食べたり、おみやげを買ったりしていた。彼女もいかにも濃厚そうな牛乳を一本だけ買った。

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エンジンをかけ、プロペラのある方向へオートバイを発進させた。途中、道路の脇にオートバイを停め、何枚か写真を撮ってみた。彼女は魚眼レンズのカメラを持ってくるのを忘れたことを少しだけ後悔した。
さらにそこからほんの少しだけ行くと、レストランのような建物がある駐車スペースがあった。そこにゆっくり入っていくと、プロペラの軍団が海の方向に向けて立ち並んでいるのを見ることができた。
先月このプロペラたちを彼女は飛行機の中から見下ろしていた。
今それをこうして近くからながめている。飛行機の中の自分とここに立っている自分両方を想像しながら彼女は写真を撮った。
夏の暑い日差しが、黒のジャケットに黒のパンツ姿という体全体に吸収されて、この光景が知らない間に記憶の一部に変化していくのを心地よく感じていた。

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by space_tsuu | 2008-07-22 00:00 | 私の心とその周辺
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