カテゴリ:淡いオレンジの背表紙( 3 )

浴室で深呼吸

秋の金曜日の夜、夕食を食べないまま十時近くまで仕事をしたあと、食後酒を一杯だけ飲めば、すくなくとも心理的にはきちんと夕食をとったのとおなじを効果を得ることができるのではないかと考える彼女。
そしてホテルの部屋で、三十回連続で四セット、あいだに適当なインタヴァルをはさみつつ腕立て伏せをする。仕上げは片腕だけで交互に五回ずつ。

フランス語で読んだ恋愛小説の話。ひとりの男性がひとりの女性の半分を愛する物語。彼女は、美しい素敵な人で、まちがいなく女なのだけれども、男のような部分も、心の内部に持っている。それが彼女の右腕にあらわれていて、その男性的な部分に彼は強くひかれているという内容。


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ジョルジェ・デ・キリコの絵に関する話。

セロリの茎と言われている部分が実は正確に言うと、セロリの葉であること。

今の状態は?と 聞かれて次のように答える彼女。
「ちょうど、バランスがとれているの。一方に過去があって、その反対の方向に、将来があって、その両方が、いまちょうどバランスをとって、平衡に釣り合ったとこだわ。これまでと、これからが、左右対称なの。」

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パラパラとページをめくりながら、もう何年も前に読んだストーリーの中に、無意識とはいえ、いかに今の自分が影響を受けている部分が多いかを発見して呆然となる。
そっくりそのまま自分の行動が影響を受けているというわけではないにしろ、興味を持ったものや、心の動き方、ものに対する考え方の中に何かしら小さな断片として組み込まれているようだ。
なんらかのシチュエーションがあって、その時にこんなふうに思ったり考えたりするのは、ここから来ていたのかもしれないと再発見するのは、昔遊んで忘れていたおもちゃ箱のふたを開けて見てみるようでなんだか楽しい。

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カバーをめくったところに若き日の片岡さんの写真がある。誰が撮ったものだろうか。陽に焼けた両手を頭の上で組んで、どこかを見ている。海だろうか。何かをじっと見るというよりは、何かに思いをめぐらせているのかもしれない。
きっと頭の中では、様々なアイディアの断片が、海の上に浮かぶ雲のように浮かんでは組み合わさって形を変えているのだろう。

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by space_tsuu | 2012-04-24 00:00 | 淡いオレンジの背表紙

美しいひとたち

この本は、あからさまな性的な描写よりも、読む側がそれぞれの想像力を駆使して映像化して読んでいくほうが、はるかに艶かしいということを教えてくれる一冊かもしれない。

『夢の終わるべきかたち』の中のパラグラフが印象的なので、少し抜粋してみることにする。

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「夢というものは、実現しないものなのです。夢は、ただ消えてゆくだけのために、存在します。誰もが夢を持ちますが、人生のなかばには、ほとんどの夢は消えています。」

「夢は消失しても、男性たちは生きてゆきます。しかし、人は現実のなかを生きるのではありません。自分で物語を作り、そのなかを生きてゆきます。現実は自分とはなんの関係もなしに起こってくる、それぞれにまったく無関係な出来事の、荒涼たるちらばりです。このような現実を、自分を中心にして組み換え、作り変えたものが、物語です。」

「夢が消えたあとを、物語が引き受けます。そして、物語を作るにあたって、もっとも強力なきっかけとなるのは、いつもきまって若い女性の体です。」

ひとつひとつの物語は違っても、これは、普遍の原理なのだ。

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by space_tsuu | 2010-04-08 00:00 | 淡いオレンジの背表紙

赤い靴が悲しい

解説は水上洋子さんだ。
彼女が書いているこんな文章に頷いた。
「片岡さんが描く女性のかっこよさは、通り一遍のかっこよさではない。女性の欠点さえもかっこよく描いてしまうのである。
女性のさまざまな欠点とされているところをあげれば、感情的、気まぐれ、焼き餅焼き、人の悪口好き、といったところ。
だが片岡さんは、それをいけないとは言わない。
(中略)
彼女たちはとてもしたたかで強そうである。でも基本的にどこか品がいい。たとえどんなことをしても、いいところのお嬢さんふうの育ちのよさがある。
そう感じるのは、ヒロインたちが女の欠点をへんに隠したりせず、ちゃんとそれを見つめ、つき合っていく余裕を持っているからだ。こういうのは客観的な思考のできる女性でないとできないことだし、どちらかというと男性が得意とするところだろう」

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これには同感なのだが、女性たちがかっこいいのはやはり、片岡さん自身がそうだからなのではないかとも思う。
片岡さんが誕生させる女性たちは片岡さん的な思考の持ち主になる。
いずれにせよ、読んでいて清々しい気持ちになれるのには違いない。
悩み事などはほとんどないと思っているけれど、ふとマイナスな傾向に偏っていきそうになったりした時に、片岡さんの文章を思い出すと、霧が晴れるようにそんな気分はなくなってしまう。
そして、片岡さんの様々な文章や台詞がいつのまにか膨大に積み重なっているせいか、精神的にかなりタフでいられる自分を発見すると嬉しくなったりする。

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by space_tsuu | 2008-05-13 00:00 | 淡いオレンジの背表紙