カテゴリ:私の心とその周辺( 55 )

450キロ間の乾杯

今年も魚座の最後の日がやってきた。
その前夜、私の住む場所から約450キロ真南にいる友人たちと、
片岡さんの誕生日をお祝いした。
片岡さんは焼き鳥が好きだということで、彼女たちは焼き鳥屋にいたそうだ。
だから私も冷酒を買って、おちょこで乾杯をした。
焼き鳥も買っておけばよかったかなと少し残念に思いながら、ほどよく冷えた
冷酒を一口飲んだ。
誕生日をむかえる本人がいないところで、誰かの誕生日を祝うというのも
なかなかいいものだ。

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by space_tsuu | 2008-03-21 00:00 | 私の心とその周辺

せつなさの断面

机の上にあるメモパッドに、彼女は英語の短いセンテンスをいくつか書きとめた。
書いてから読み直してみると、スペルを間違えた箇所を発見したので、その部分を消しゴムで消した。
消しゴムの小さなカスがメモパッドの上に散らばった。
それを指ではらいながら、あ、これは「過去」だ、とふと彼女は思った。

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「現在」という「いま」が、未来の連続だとするなら、その「いま」の後には刻々と「過去」が刻まれては積み重なっていく。
メモパッドに書かれている文字は、すべて「過去」だ。
その「過去」を消しゴムで消してみる。
消しゴムによってからめとられた鉛筆で書いた「過去」は、小さくまるめられて消しゴムのカスに姿を変えた。
そして、それはゴミ箱に入れられ、やがては消えてなくなる。
このようなことをしている自分も、いつかは同じ運命だ。
未来の頂点を極めた自分の後には、膨大に積み重なった過去の地層ができあがる。
その時、その断面を見ることができるなら、面白いかもしれないと彼女は思った。
それには、ほんのりとせつなさが漂っているといい。
そのせつなさの断面を想像しながら、彼女はコーヒーを一口飲んだ。

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by space_tsuu | 2008-03-19 00:00 | 私の心とその周辺

雲の上の未来

雨の匂い

走り去る車の音

過去から未来へ

黒いアスファルトの鏡

にじんで輝く物語の灯り

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過ぎ去ろうとする今日

激しいリズムのピアノトリオ

グレーの雲のずっと上には、きっと細い三日月

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by space_tsuu | 2007-05-25 00:00 | 私の心とその周辺

晴れた夜、RainyDayで

階段を下り、左側に直角に曲がると、入り口のドアは開かれていて、そのままカフェの中に入ることができた。
左の壁一面には、片岡さんの書物や、エッセイに時々登場するペーパーバック、絵本、小物類、カメラなどが綺麗に並べられていた。
その前のスペースに、BOSEのスピーカーから流れる曲を聴きながら片岡さんと小西さんが座っていた。
私は簡単な挨拶をしてから、知り合いと向かい合わせになる席に座った。不思議と心臓の鼓動は平常だったが、どうしても片岡さんのほうを見ることができず、困ってしまった。

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その音楽談義が約2時間続いたあと、軽食会があり、その時にひとことふたこと片岡さんと会話をすることができた。ああいう時には、なぜ気の利いた台詞が出てこないのだろうと、自分のバカさ加減に呆れながらも、生身の片岡さんに会えたことを、夢の中の出来事のようにぼんやり思い出している。

帰ってきてからは、何かひとつ大きな仕事を終えたあとのような気分というか、ジグソーパズルの最後のピースをはめこんだような気分というのに似て、放心状態に近い脱力感におそわれたりした。

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これで、このブログはやめてしまおうかとも思ったりして、一緒に行ってくれた女性とメールでやりとりをすると、その聡明な彼女は、私は次のフェーズにきたのだと言ってくれた。
その言葉にはっとし、私がこのブログを始めたのは、何も片岡さんに会うのが目的ではなかったことを思い出させてくれた。
このブログは、このまま今までどおり、ゆっくりと気がむいた時に更新していけばいい。

今の私の状態は、おそらく、幕間なのだ。
そして、私というストーリーの中の、今はどのへんにいるのだろうと、ふと思った。

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by space_tsuu | 2006-11-28 00:00 | 私の心とその周辺

あいまいな午後の陽射しの香り

この不思議な感触は何なのだろうと、ふと思う時がある。場所や時間がまったく違うのだけれども、ある瞬間に、あ、まただ、この感じと思える空気感にふわっと包まれる瞬間がある。

夏の暑い陽射しの中、明治神宮の生い茂った緑を目の前に見ながら、原宿駅のホームに降り立った瞬間の空気の温度感と午後のあいまいな時間の光。なまあたたかい風を全身に受けつつ、海を視界のかたすみに感じながらモノクロームのアスファルトの上をひたすら前に向かってオートバイを走らせている時に一瞬感じる透明な薄いオレンジ色の光と陽射しの匂い。 休みの朝、時間を気にすることなく起きて、ふと窓を開けた瞬間に、目には見えないけれども確かに部屋の中に漂い入り込んでくる空気の感触。

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場所や時間はまったく別なのにも関わらず、全く同質な不思議な感触を感じることがある。それは何なのかわからないけれども、共通していることは、あいまいな時間とあたたかい陽射しと空気の匂いだ。どんな空気の匂いなのですかと聞かれても、とっさには答えられないが、確かに同じだと感じる瞬間がある。陽射しに匂いがあるなら、あれはもしかしたら太陽の香りなのかもしれない。自分の中では、陽によってあたためられた空気の匂いというよりは陽射しそのものの匂いという感じだろうか。ほんの一瞬自分の鼓動だけが動いていて、周囲の時間が一秒か二秒止まってしまったようにも感じられるあの瞬間。既視感とも違う何か。あの感触を昨日も感じた。いったい何なのか。

ただわかっていることは、その瞬間は私にとって、なにか懐かしくもあり、とても心地良いものだということだけだ。

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by space_tsuu | 2006-08-03 00:00 | 私の心とその周辺

水たまりの白日夢

雨上がり、マンションの裏の駐車場に向けて歩いていく。
コンクリートのくぼみに水たまりがあり、その中に青空を見つける。
上空を見上げてみると、そこには確かに白く流れる雲とともに底抜けの青さが広がっている。
もう一度水たまりに写った空をじっと見つめてみる。
時おり、微風によって水たまりの青空が波立つ。じっと見続けていると、いつしか自分の体が消えて意識だけを感じるようになる。すると、どちらが現実でどちらが虚構なのか区別がつかなくなり、水たまりの中の世界にいるもうひとりの自分によって見つめられているような気持ちになる。

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水たまりの青空を飛行機が横切っていく。その飛行機の窓から自分を見つめている人を想像する。一瞬、その人と自分は目が合う。飛行機に乗っている人の顔など見えるはずもないし、向う側から見えたとしても黒い点にしか認識できないだろう。しかし、確かに視線を交わしたと確信する。
そしてその人は、自分なのだ。

水たまりに写っている自分と水たまりの中の飛行機に乗っている自分。
さらにその水たまりを覗き込む自分と、その自分の遥か上空を飛んでいる飛行機の中の自分。
どこからどこまでが現実の自分で、どこからどこまでが想像上の中の自分なのかまるで区別がつかなくなる白日夢だ。

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by space_tsuu | 2006-07-28 00:00 | 私の心とその周辺

すべては自分次第

6月第2週  

突然降り出した雨

バケツをひっくり返したようなどしゃ降り

バケツの大きさを想像して苦笑い

白熱灯の明かりと幸福の木

かすかな不安が一瞬心を横切る

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ピアノトリオの曲が流れている

Reborn

雨の音は消えた

明るい光が窓ガラスから射しこむ

熱いブラックコーヒーが飲みたくなった

壁にかけてあるドリーム・キャッチャー

BGMはいつしかペトルチアーニのピアノの音

すべては自分次第

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by space_tsuu | 2006-06-12 00:00 | 私の心とその周辺

雲の楽しみ方の一例

「お座席は窓側と通路側、どちらになさいますか?」
「窓側でお願いします」
飛行機では必ずといっていいほど私は窓側に座る。
そして、飛行機が離陸し、今いた場所がどんどん小さくなっていく様子をながめる。
飛行機の窓から見えていた大きな建物や車が、加速度を増していく遠近法の中で自分より小さくなっていくのをずっと観察する。機内では客室乗務員がいつもどおりに酸素マスクの説明をしている声が、ラジオから聞こえる音のように遠くに聞こえている。
それでも私は窓の外を見続ける。

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縦横無尽に伸びる道路を車が走っているのが見える。
ゴルフ場の18ホールが、まるで絵のように綺麗だ。フェアウェイやグリーンにいる人たちは、瞬く間にゴマより小さくなっていく。車を運転している人やゴルフを楽しんでいる人たちは、私に遥か上空から観察されていることは知るよしもないのだと思うと、微笑がこぼれる。

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突然、煙にまかれたように今まで見えていたものが見えなくなる。見えなくなると同時に雲の中に入ったのだと気づく。私は少しの間、雲という水蒸気の集まりを観察する。すると場面が切りかわるように雲の絨毯を見ることになる。私はいつもこの絨毯の上におりたくなる。ふわふわの絨毯の上に両手を広げて飛行機から飛び出したい衝動にかられる。
先日見た雲の絨毯の上にはさらに雲の天井があり、飛行機が高度を増すにつれてその雲の天井も突き抜け、新たな雲の絨毯を見ることができた。
しばらくその雲をながめて満足した私は、着陸する時のさっきとは逆の遠近法を楽しむまで機内誌を取り出して読みはじめる。  

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by space_tsuu | 2006-05-08 00:00 | 私の心とその周辺

宝物に伸びる影

仕事場のあるマンションの裏側の駐車場のスペースに車を停め、彼女はマンションの入り口のフロアに通じるドアに向けてゆっくりと歩いていった。通用口のようなそのドアを開けると、正面玄関に向かって左側の壁の半分ほどの位置に各部屋の郵便受けが設置されている。

彼女は、自分の部屋の番号の郵便受けに何か入っていることに気づいた。
近づいて確認してみると、オレンジ色のクッション入りの封筒が、投函する箇所から、ややはみだしていた。
彼女は、大きなその封筒を手にとり、正面玄関から外に出た。外に出て、右側へ歩くとすぐに自分の仕事場である濃いグレーのドアがある。ドアの鍵を開けつつ封筒を見てみると、オレンジ色の封筒のまん中に白い紙が横に貼ってあった。そしてそこに宛先である自分の名前がブルーのインクで書いてあり、その下に差出人の住所と氏名がやや小さめに印刷してあった。

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その名前を見た瞬間、彼女は自分の目を疑った。ドアを開けるための銀色の縦長のバーに手をかけたまま、彼女は呆然とした。すぐに我にかえり、ドアを開け、部屋の中のカウンターに荷物を置き、そのオレンジ色の封筒の名前をもう一度確認した。なにかのいたずらだろうかと一瞬思ったが、すぐにその思いをふりはらい、こわれものを扱うような手つきで、封筒を開けた。
中からは一冊の写真集が出てきた。表紙全体は写真になっていて、表紙全体は写真になっていて、淡いピンク色の帯が本の下半分を占めていた。そしてそこには「東京は被写体の宝庫だ。」と黒い文字で書かれていた。その帯をはずし、表紙の写真を見ると、道路の縁石部分が本の左下から中央上部に向かって伸びていた。そしてそのすぐ右側に電柱の根元があり、その前にある雑草の緑がアクセントになっていた。左側から右ななめ上に向けて、なにか建物か木々の影が写っていた。電柱の右側にも同じように電柱自身の影が伸びていた。影は手前から奥に向かうにつれ、その色を濃くしていた。この場所に立ってみたいと、ふと彼女は思った。

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この写真集は、まだ発売前のものだった。
いきなり天から授かったプレゼントのように思えた。
差出人は、彼女が大好きな作家だった。何度かその作家に手紙やはがきを出したことはあるが、まさかこんな形で、自分に対して返事がくるなんて思いもしていなかった。
写真集をプレゼントしてもらえるなんて、夢のようだった。

厚い写真集を両手でかかえながら、これは私の宝物だと彼女は思った。しかし、本当の宝物は、この作家が自分のことを思い出して、こうして写真集を送ってくれたというその気持ちこそが宝物なのだと、ブルーのインクで書かれた自分の名前を見ながら、彼女は微笑した。

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by space_tsuu | 2006-03-24 00:00 | 私の心とその周辺

上り坂の地平線

車でもバイクでもいいが、起伏にとんだ道を運転していると、上り坂の地平線が空だけに接しているように見える箇所に遭遇する。
街中では、ほとんどこういう風景に出会うことはない。周りに余計なものがありすぎる。
道路の両側は木々が連なっている林や森だといい。電線などはなく、自分が進んで行く道と木々と空だけが見える。青空であることが重要だ。青空には夏の雲があるとなおさらいい。

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先日、そんな場所を何度となく通過した。
下り坂だと、遠くに周りの民家などが見えたりするが、下り切ったら、今度は道路はまっすぐ上り坂になった。両側が緑の壁で塞がれ、まるでジェットコースターで登っていくように、青い空にそのまま飛び立ちそうな錯角に陥るあの瞬間がこの上なく嬉しい。

お盆が過ぎると、夏はひっそりと少しづつ秋に溶け込んで、いつの間にか気づいたら風の香りも変わっていることだろう。
ほんのりと淋しい気持ちになりつつ、でも心のどこかには、あの上り坂の地平線と青空の光景が印画紙のように焼きつけられ、思い出すたびに少しだけ嬉しくなる。

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by space_tsuu | 2006-03-17 00:00 | 私の心とその周辺