<   2004年 03月 ( 6 )   > この月の画像一覧

雨のなかの日時計

『ついていけなかった』というストーリーの中で、彼と彼女は色彩感覚の違いで別れたという箇所がある。
その中の彼と彼女の一説を抜粋してみた。

彼「たとえば太陽。きみの太陽は赤くない」
彼女「太陽が赤いわけないでしょう」
彼「太陽は赤だよ」
彼女「月は?」
彼「黄色だ」
彼女「太陽が黄色よ。あるいは、白」
彼「それは変だ。では、君の月は、何色なんだ」
彼女「ブルーです。あるいは、ブルー・グレイ。グレイだけでもいいわ。グレイなんて、およそ無限だから。月の色も無限よ」

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私にとって、このやりとりは、ずっと心に残っているものになった。
何かあるたびに、この台詞のやりとりを思い出した。

もしかしたら、自分に見えている色彩と人が見ている色彩とはまったく違うものなのではないのか?と。
色盲や色弱という身体的な違いは別として、色彩だけに限らず、形や味や感覚や様々なものに対してそう感じていた。
あたりまえだと言われれば、それまでだけれど、きっと一人一人違うのだろう。
その中でどれだけ共感できるものがあって、自分と似ているなと思う部分が多いところに
人は親近感を覚えるのかもしれない。
逆に違う部分に興味をそそられるということもあるだろうけれど。

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by space_tsuu | 2004-03-29 00:00 | 赤い背表紙(短編)

私はいつも私

三年続かなかった結婚生活に終止符を打ち、離婚が成立した彼と彼女だったが、離婚した当初はもう会うこともないだろうし、二度と会わなくてもいっこうにかまわないという気持ちから、ほんの数カ月の間に、会いたくてたまらなくなるという気持ちの変化に耐えきれなくなり、会うことになった。

会ってみると、なぜ離婚してしまったのかのかという質問が彼の心の中に広がっていく。そして、結婚したということ、そのことだけがいけなかったのだと気づく。
結婚など必要ではなかった。結婚する以前の関係をそのまま続けていればよかったのだと確信する。

ある日、夕食を食べながら、彼女がずっと焼き鳥を焼き鳥屋さんのカウンターで食べることに憧れていたと話す。
「なぜ僕に言わなかったんだ」
「言わなかったことって、おたがいに多いのよ」
と彼女は言う。

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このふたりの離婚の原因は、この会話のなかに出てくる「言わなかったことって、おたがいに多いのよ」という部分だ。いくつかあるなかで、彼女が彼に対して、一番ひどいと思ったことは「おにぎりの話」だった。

それは、彼の仕事仲間の女性が「人に言えない秘密」というテーマで連載を書かなくてはいけなくなったので、彼にそういう秘密を教えてほしいと言われた時に、彼は自分の奥さんではなく、別の女性の節子さん、あるいは節子さんのような人におにぎりを作ってもらって食べたいと言った。
その会話の中で、おにぎりには性的な意味があって、お米だし、形も生命の素のようであり、口説いてホテルの部屋へいって、というようなことではなく、もっと深い、根源的ななにかなのだと仕事仲間の彼女は言う。

そのことを仕事仲間のその女性が彼の奥さんに、ごく軽い世間話のつもりで、おにぎりに隠された深層心理的な性の世界を、面白く強調して語った。
それを聞いた彼女は、自分とはまるっきり違うタイプの女性にそんな気持ちを密かに持っていて、奥さんである自分にはおにぎりなど作ってもらいたくはないと、自分以外の人に平気で言う人に耐えられないということが離婚の原因のきっかけだった。

このストーリーを読んで、私は自分の中にあったモヤモヤとしていた霧が晴れたようだった。
私は以前から、人がにぎったおにぎりを食べるのがどうも苦手だった。
母親や小料理屋さんで食べるおにぎりは別として、だれか知り合いの作ったおにぎりだ。
その人を嫌いだからということではなく、おいしいとかおいしくないとかそういうことでもなく、何か違和感があった。
それは、きっと、おにぎりが性的なもので人間の本能に関係してるものだからなのかもしれない。
小料理屋さんで食べるおにぎりは、おにぎりではあっても、またちょっと意味合いが違ってくるので平気なのだろうか。

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by space_tsuu | 2004-03-22 00:00 | 赤い背表紙(短編)

キャンベルの赤い缶

私が片岡さんを読むきっかけとなった「and I Love Her」の主人公の彼女が、
私の理想の彼女の筆頭だ。
そして彼女が食べるものは、ことごとく私の興味の対象になった。

中でも、朝食に食べていたビーフ・ヌードル・スープ。
この罐詰めの中身を深いパンにあけ、その罐にいっぱいの水を加えてかきまぜ、
電熱コイルのうえに乗せ温めるというだけの簡単な食事だ。
他にライムの香りをつけたサイコロ状のゼラチンと何種類かの野菜で作ったサラダ、
大きなグラスいっぱいのミルク。

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私が働いていた美容室では昼食と夕食を作ってくれる人がいたので食事には
困らなかったけれど、彼女の食事がとても魅力的に思えたので、朝食や休日には
時々真似をして作ってみたりした。

今でも、このキャンベルの缶を見つけると、ついつい買い込んでしまうのだが、
最近ビーフ・ヌードル・スープを見かけないのでチキン・ヌードル・スープで
我慢している。

味が好みだというよりは、こうして食品庫に並べて、それを時々眺めるのが
好きなのかもしれない。
そして、実在するこの彼女が今もアメリカでキャンベルの赤い缶を開けたりして
いるのだろうかと想像すると楽しい。  

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by space_tsuu | 2004-03-17 00:00 | 私の心とその周辺

不思議な香りのするウォッカ

片岡さんの小説を読む前は、ほとんどお酒を飲まなかったけれど、読みはじめると、いろんなストーリーの中に登場するお酒が気になって、どんな味がするのか確かめてみたくなった。

「ストリチナーヤ」のように名前をそのまま書いてあったりマティーニのようにカクテルの名前が書かれているのは、すぐ探し出すことができたけれど、「バッファロー・グラスという名の草の葉の香りをつけた不思議な味のするウォッカ」とはいったいどんなウォッカなのか、気になった。

 
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薄いグリーンに色付いたウォッカの中に細い藁のような草が一本入っているウオッカを見つけた時は、これだ!と確信した。ラベルには牛のような絵が描いてある。
バッファロー・グラスはバイソン・グラスまたはズブラとも言うそうだ。

大きな氷にズブロッカを注ぎ一口飲むと、小説に書かれているように不思議な味と香りに包まれて、私は一瞬にして架空の時間の中に迷いこんでいく。 

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by space_tsuu | 2004-03-16 00:00 | 私の心とその周辺

マーマレードの朝

あとがきは郷原宏さんという人で「職業も地位も学歴も思想も、時には性格さえも、重要ではない。ただそこで何をし、
何を考え、何を感じたかということだけが問題である。」と
書いてある。

これには私も全く同感で、小説においてだけではなく人生についても同じことが言えるのではないかと思う。

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by space_tsuu | 2004-03-14 00:00 | 赤い背表紙(短編)

ふたとおりの終点

この八編のショートストーリーのうち七編は片岡さんが
いろんなプールのなかないしはプールサイドで考えたり
思い付いたりしたものだそうだ。
プールで泳いでいた時に、こちらから泳ごうとする人に
とってはあちらの端が終点であり、むこうから泳いで
くる人にとってはこちらの端が終点だとふと思ったこと
がこの小説のタイトルになったそうだ。

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by space_tsuu | 2004-03-11 00:00 | 赤い背表紙(短編)