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アップル・サイダーと彼女

この本は片岡さんそのものだ、と言っていいだろう。あとがきで本人がまぎれもなくぼくであり、ぼくがぼくであることの結果や証明のごちゃまぜであると言っているから、そうなのだろう。あとがきが一九七九年十月とあるので、その時までの片岡さん自身だということになる。
朝の八時から午後の四時すぎまで空の雲をながめてすごし、午後が夕方に変わっていこうとしている時間にこの「あとがき」を書いたそうだ。
「あとがき」というふうになつているけれども、私にとっては、「あとがき」という名のエッセイのひとつに思えるぐらいだ。

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この中に書かれている話はどれも素晴しい。どれも感銘をうける。どれかをひとつあげてくださいと言われても困るので、トランプのカードを一枚抜くようにページを開き、ひとつだけ選んでみた。
そのページは「コンドルは滑空していく」というタイトルだった。
『ぼくはコンドルという鳥に、すこし興味を持ってしまった。』という出だしで始まるエッセイなのだが、これを読んでしまうと、「私はコンドルという鳥に、ひじょうに興味を持ってしまった。」と言わざるをえないくらい引き込まれてしまう。
去年たまたまアマチュアのフォルクローレを聴いたのだが、その時に演奏で使っていたケーナはコンドルの主翼の骨で作られていたのだと今さらながらに気づいた。私は「コンドルは飛んで行く」という曲が心が揺さぶられるくらい大好きで、いつも聴くたびにぼうぜんとなるくらいなのに迂闊だった。自分の迂闊さを少しでも取り戻すために、数百万年も昔からすこしも変化していないというコンドルの骨でできたケーナを吹いてみたいという衝動がわきおこってしまった。

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by space_tsuu | 2005-04-27 00:00 | 赤い背表紙(エッセイ)

片岡さんの写真展

かつて行われた片岡さんの写真展のポストカードだ。残念ながら私が行って、もらったものではなく、親しい女性の友人からいただいたものだ。

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最近は片岡さんの写真展は開催されていないのだろうか。来週COYOTEと富士フイルムイメージングによるトーク・セミナー『COYOTE 旅・写真シリーズ』というのがある。見つけた時にまっ先に応募したのだが、先着150名からもれてしまったようだ。片岡さんがあの素敵な声で何を話すのか楽しみだったのに、とても残念だ。

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いつかまた写真展があるなら絶対行きたいが、あるのだろうか。写真展なら先着順でなくても見れるだろうから。  

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by space_tsuu | 2005-04-11 00:00 | 私の心とその周辺

モノクロ写真に紅一点

まだ春という言葉を聞くにはほど遠い気温の低い朝、彼女は寝室の窓を開けて外の様子を観察した。空はどんよりと灰色の雲でおおわれていた。
彼女は寝室を出てキッチンへ行き、冷蔵庫の中からミネラル・ウォーターを取りだし、グラスいっぱいに注いだ。そして居間のほうを向きながらグラスに入った水を一気に半分ほど飲んだ。居間のガラス戸の向こうはサンルームになっている。そのサンルームの窓の外へ視線を伸ばしながら、あとの半分を飲んだ。ガラス戸ごしに見える外は寝室で見たのと同様の灰色だった。鳥が二羽、お互いを追いかけあうようにしながら、窓の外を斜に飛んでいった。
彼女はふと海が見たいと思った。
彼女は海を見ながら運転することに決め、簡単に身支度を整えてからガレージに置いてある車に乗り込みエンジンをかけた。

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海に沿って国道を南下するように続くルートを彼女は走った。右側に鉛色の海が横たわっていた。冬の海は白い波しぶきを幾重にも重ねあわせながら、ひとり遊びをしているように見えた。右前方から海を隠すように松林が見えてきた。松林は台風の塩害によって葉が全て枯れ落ちていた。枝もところどころ伐採されて、青々としていたはずの松の面影はどこにもなかった。フロントガラス前方に視線を戻した彼女は自分が進んでいく道路のアスファルトを見るともなく見ながら、しばらく運転に没頭した。

グレーのダッシュボードの先にはシルバーの車体、そしてその先は灰色のアスファルトと白いラインだ。右には灰色の海と葉っぱのついていない灰色に近い色になってしまった松林が視界の片隅に入ってきては後方に消えていく。前方から来る対向車も白やグレーばかりが多かった。ふと彼女は自分が白黒の世界の中を走っている感覚に陥った。近付きつつある信号が黄色に変わるのが目にはいった。彼女はモノクロの映画フィルムの中の信号機をそこだけ黄色のマーカーで塗りつぶしたのを見ているような気持ちになった。すぐに信号は赤になった。彼女は車を停止させた。信号の赤いライトを見ながら、ふと彼女はこのルートの中で写真を撮ることを思いついた。このルートのどこかに適当な場所を見つけてそこに立ち、カメラを構えて、まるでモノクロのように見える背景をバックに一台だけ走ってくる車を撮る。その車は真っ赤な車がいいと彼女は思った。

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by space_tsuu | 2005-04-09 00:00 | 私の心とその周辺