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雲の楽しみ方の一例

「お座席は窓側と通路側、どちらになさいますか?」
「窓側でお願いします」
飛行機では必ずといっていいほど私は窓側に座る。
そして、飛行機が離陸し、今いた場所がどんどん小さくなっていく様子をながめる。
飛行機の窓から見えていた大きな建物や車が、加速度を増していく遠近法の中で自分より小さくなっていくのをずっと観察する。機内では客室乗務員がいつもどおりに酸素マスクの説明をしている声が、ラジオから聞こえる音のように遠くに聞こえている。
それでも私は窓の外を見続ける。

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縦横無尽に伸びる道路を車が走っているのが見える。
ゴルフ場の18ホールが、まるで絵のように綺麗だ。フェアウェイやグリーンにいる人たちは、瞬く間にゴマより小さくなっていく。車を運転している人やゴルフを楽しんでいる人たちは、私に遥か上空から観察されていることは知るよしもないのだと思うと、微笑がこぼれる。

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突然、煙にまかれたように今まで見えていたものが見えなくなる。見えなくなると同時に雲の中に入ったのだと気づく。私は少しの間、雲という水蒸気の集まりを観察する。すると場面が切りかわるように雲の絨毯を見ることになる。私はいつもこの絨毯の上におりたくなる。ふわふわの絨毯の上に両手を広げて飛行機から飛び出したい衝動にかられる。
先日見た雲の絨毯の上にはさらに雲の天井があり、飛行機が高度を増すにつれてその雲の天井も突き抜け、新たな雲の絨毯を見ることができた。
しばらくその雲をながめて満足した私は、着陸する時のさっきとは逆の遠近法を楽しむまで機内誌を取り出して読みはじめる。  

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by space_tsuu | 2006-05-08 00:00 | 私の心とその周辺

結婚のヒント

前半の第一部は、結婚について、座談会の形式で、五人の男性が語っていく。
仕事で特化する男性と都市化への道を突進していく女性に接点がないのは、社会のありかたから生まれていること、いちばん生きがいを感じるのは会社的ではない生きかたかもしれないということなど、結婚などせず、六十になっても出来ることを、若いうちから自分の生活の中心軸にしておき、たとえば炭焼きの専業になればいいのではないかというようなことがアイディアとしてあげられている。

後半第二部では、三人の作家の座談会だ。三人とも離婚を経験している。
普通の人ひどが生きることの意味を失った国で、生活を楽、得、きれい、の基準で選んでいき、うつろいゆく流行やそのときどきのどうでもいいような欲望や衝動に乗っかり、漂うとしか言いようのない日常のなかをゾンビのように生きていくというような話から、自分たちの離婚の話、最後には小説のストーリーのヒントを探しだしていくような内容で終っている。

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そして、扉の文章には、こうある。

『モノポリーの用具一式に、ブリッジとポーカーのカードをそれぞれひと組づつ、そしてそれに玉突きのキューのふたつに切り離すことの出来るのを加え、すべて持ち歩いていた日々がかつて僕にはある。ずいぶんと呑気な日日だった。いまでもこの四つのゲームはたいへんに好きだ。人生はモノポリーのようなものだと言う人がいるけれど、僕にとっては人生はブリッジでもありポーカーでもあり、玉突きでもあるから、忙しい。昨年の夏にはホノルルからの帰り道、飛行機のなかでずっとモノポリーをしていた。最後のゲームは成田に着いても決着がつかず、ホテルに部屋を取ってゲームを完成させ、ついでにブリッジとポーカーもして、夜はすぐに明けた。昔の悪友たちと玉突きをするために、ホノルルへいった帰りだった。』

戦後生まれで、生まれた時から、ただ単に流されながらあいまいに生きてきている私たちは、目に見えないボードゲームの上に立っている。これでいいのだろうかと思いながら、けれども何をするわけでもなく、何もできないまま、サイコロをふり続ける。そして、なににも気づかず、何かを理解するわけでもなく、いつのまにかゴールだ。この本は平成六年に書かれたもので、それからさらに十年が経過しているが、きっとこれから先も、このような状態はさらに加速度を増していくのだろう。

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by space_tsuu | 2006-05-05 00:00 | 赤い背表紙(中編)