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表参道の地下鉄から

時計のデジタル表示を見て、イベントが始まる時間には、遅れてしまいそうだと彼女は思った。
地下鉄は表参道の駅に着き、ドアが開いた。
降りようとした瞬間に、彼女は見覚えのある男性に気づいた。
彼は軽い足取りで地下鉄の階段のほうへ向かった。
彼女が声をかけようかと迷っている間に、すぐさま人の波が彼と彼女の間になだれこんだ。

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彼女は彼を見失わないように気をつけながら、程よい距離を保ったまま、彼の後に従った。地下鉄から地上へ出る階段をのぼりながら、追いつこうと思えばすぐにでも追いつける距離を、彼女は彼の歩調に合わせるようにしてそのままキープした。
彼女は彼の軽快に歩く姿を観察しながら、彼と自分との間にある距離と歩くスピードを心地よく感じていた。
しばらくすると行く先の信号が赤に変わった。
彼女は少し緊張しながら、信号待ちをしている作家に声をかけた。
作家は、一瞬驚いたような表情をしたあとで、
「遠いところをわざわざありがとうございます」
と言ってくれた。
彼女は「来たかったので」と一言だけこぼれるように言うのが精一杯だった。
ふと彼は「僕の前を歩いてください。後から見ていますから」と言った。
彼女は照れくさいのとはずかしいのが入り交じり、「道がわからないので」と言い、そのまま並んで歩いた。

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ふたりはぽつりぽつりと話す程度で、歩く速度はずっと一定したまま、いつしかカフェの階段の前に到着した。
彼女はお先にどうぞと手振りで階段を示したが、彼は彼女を先にうながした。
彼女は緊張しながら階段を降りた。そして、彼があとに続いた。
午後のあいまいな時間に、その日のイベントが始まった。

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by space_tsuu | 2008-06-24 00:00 | 私の心とその周辺

美人物語

扉の文章にこうある。
「女であることを変えることはできません。ですから、彼女は、生理的な魅力は美しく洗練させつつも、頭のなかでは女であることを忘れるのです。女、という枠組から、彼女は自らを解き放ちます。美人物語はそこからはじまります。」

私は自分がいつもそうだということを思い出した。前にボビーのところで書いたように、やはり私の本質は、そういうところにある。魅力的に洗練させつつという部分は横に置いて、女という枠組から自分を解き放つということはよくある。しょっちゅうある。というよりも、そのほうが自分らしいからだ。
髪の長さをショートにしていたこともあるが、ここ数年はずっと肩より下のロングだ。
ショートカットにすると、自分をあまりにもあからさまにさらけ出しているようで、気恥ずかしくなってくる。外見に「女」という額縁をほどこし、中身は女でも男でもない、どこか両性具有のような自分を時おり、第三者的な目で観察してみるのも面白い。

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あとがきに、片岡さんは真夏らしいかんかん照りをオートバイで充分に楽しんだあと、海に沿ったルートを走り、ささやかな港のまんなかにある桟橋にオートバイをとめ、海に飛びこんだと書いてある。
そして、海風がやさしく片岡さんの顔を撫でた。
それを読み終わったあと、目を閉じてその様子を想像してみた。そして片岡さんの代わりに私が海の中にいるところを思い浮かべてみた。
潮の香りがふっと漂ってどこかに消えた気がした。

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by space_tsuu | 2008-06-12 00:00 | 赤い背表紙(短編)