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and I Love Her

『なにをしているというわけでもないけれど、なにか自分好みのことをしている、みじかい不思議な自由時間。誰もが体験している時間ですし、とても大切なひとときなのですが、すぐに消え去り忘れてしまいます。こんな時間をひとりの女性の一年間のなかからひろい集めたのが、この本です。愛する彼女の伝記だと、著者は言うのですが。』

扉の文章だ。

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片岡さんの本を読むきっかけになったのが、この『and I Love Her』だ。
書店でなにげなく手にとってぱらぱらと読み始めた時の静かな衝撃を今また思い出している。
少しだけページの上部に余白があり、文字の色はダークブルーだ。
ひとりの女性の行動をただ淡々と書きつづっているだけのような文章を私はこれまで読んだことがなかった。
「なんだ、この小説は」と思いながら、買わずにはいられなかった。
通勤中の電車の中やアパートの部屋で夢中になって読んだ記憶が蘇ってくる。

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ショーツ一枚に春のハイヒール・サンダルだけの彼女が鏡の中の自分を見ながら冷たいビールを喉に流しこむ。
微妙にくすんだオリーヴ・ドラブ色のダッジ・チャレンジャーに塗れてはりついている桜の花びら。
ビーフ・ヌードルスープ、タバスコを数滴ふりかけてかきまぜたブラディ・メリー、バッファロー・グラスという名の草の香りをつけた、不思議な味のするウォッカ。
完全に自由だった時間の証明のような陽焼けのあと。
ゴム動力で飛ぶ模型飛行機。
読みすすんでいくうちに私はこの本の世界の中に完全にとりこまれてしまった。
そして、まだいぜんとして片岡義男という世界の中を探検しつつ、いつまでもそこから出たくないような気持ちが続いている。
この時おそらく、私の中に、すすむべき道の小さな芽が生まれたのだろう。
私の理想の終点は漠然と決まった。

この『and I Love Her』の主人公の女性は実在の人物だそうだ。
今どうしているのだろうか、とふと思ったりもするが、この本の中の「彼女」は、私の中では永遠なのだ。

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by space_tsuu | 2010-02-26 00:00 | 赤い背表紙(中編)