花なら紅く

「良きデザインとしての女性の体、なかでも胸のふくらみに関する、形而上的な熱意を表現した文章集」と小津安二郎監督の名作映画、三作のなかで原節子が演じた「紀子さん」をめぐる、対話による謎解きという二つの小説でなりたっているのが、この『花なら紅く』だ。

さて、何について書こうかと思って手にした本がこの『花なら紅く』だった。表紙の写真にはAUGUSTの文字があるではないか。

書くなら今がちょうどいい。

読んでみると、時代背景、開放と閉鎖、カラーとモノクロ、胸とおしりなど、対照的な内容の二編なのだが、それについての福島礼子さんの解説が素晴らしい。

いくつか抜粋してみよう。


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「片岡氏はまるで魔法の薬でもつかったように、このような様々な性の舞台から、リアルな吐息や汗をカットする。そこに展開されるのは身体と性の美しさだけが、シルエットのようにうかびあがった透明な世界なのである。」


「『胸のふくらみがこう語った』を性を開花させる陽の物語とすれば、あとの小説『紀子が三人いた夏』は、陰の花として限定された狭い性をいきねばならなかった女性たちの物語である。」


「本当のエロティシズムは、博物館のように知識として身体を見る(知る)ということではない。また好奇のまなざしで陵辱することでもない。 異質の性をテンションをぎりぎりまでたかめて、まなざしという愛撫を行使すること、肉体の形象の美しさを堪能し、互いに許容しながら体温を感じあうことだという示唆を、片岡氏はまったくあい反する二つの小説を並列させることで、私たちのまえに、そっと提示しているのだ」


それと、私がこの小説で知ることができたのが、「エディプス・コンプレックス」というフロイトによる精神分析の概念だ。

片岡さんは、やはりいろんな分野にアンテナを伸ばしている人なんだと、あらためて思った。





『胸のふくらみがこう語った』


奈津子

直子(女性としての名)



半袖のシャツにチーノ

ハイ・カットのテニス・シューズ

白い半袖のシャツ

大きめのシャツ

秋のジャケット

ビキニの水着(趣味はいいけれど、派手めのビキニ)

パーティー・ドレス

ウエット・スーツ(3ミリのネオプレーンの、首まで、そして手首、足首までの、フル・スーツ)

木綿のソックスにスニーカーをはいて、腰にはスカーフを巻いている

かなり幅の広い水平ストライプの長袖のTシャツ

ダークブルーの地に淡いベージュで魚をいくつも抜いて模様とした、よく似合うワンピース

高いヒールのある赤いサンダル

灰色のタイトぎみのスカート

模様として描いたばらの花が、抑えぎみの色でぜんたいへ適正に散っている、はき心地の良さそうな木綿の長いスカートに、おなじく木綿のタンク・トップ

シルク・サテンのフレンチ・スリーヴのシャツに、美しいフレアのある、長めのスカート

ほど良くヒールのある靴


優しい生命力をたたえた白い肩たに寄り添う、はかなげに細くてすべすべとした、妖しい色の、スリップの肩紐


ガラス・トップのテーブル

イージー・チェア

ラヴ・チェア

ひとりがけのアーム・チェア


コーヒー

ドゥミ・タース

トマト・ソースの缶詰

エスプレッソ


ダリの絵

一九四四年の『ガラリーナ』


ウエンガーのポケット・ナイフ


蝶やタランチュラの形のバンドエイド


髪は短いマッシュルーム


コダック

カラー・リヴァーサル

ネガで撮ったプリント


胸のふくらみのコレクション


『聖母と子供』ニューヨークの近代美術館で買った絵葉書

『嵐』ピエール・オーギュスト・コットの油絵を使った絵葉書

『ナチェズ』ユジーン・ドラクロワ

『パロットを手にする女』クールベの一八六六年の作品

『トルソ』アルフレッド・スティーグリッツの写真を使った絵葉書で一九〇九年の作品

ジョージア・オキーフの乳房を撮った写真

ビル・ブラントの写真を使った絵葉書

ロバート・メイプルソープの正方形の写真が使ってある絵葉書



『紀子が三人いた夏』


店の女主人

エル・マクファスン(アメリカのジャーナリスト)

小津安二郎

ジュディ・ガーランド

原節子

紀子

父親

服部

月丘夢路

杉村春子

三宅邦子

小野寺のおじさん

その相手の女性

調理人

林芙美子

平山老夫妻

笠智衆


『東京物語』昭和二十八年の作品

『麦秋』昭和二十六年の作品

『晩春』昭和二十四年の作品(モノクローム一〇八分)


コーヒー

エスプレッソ

目玉焼きにはベーコンを添え、トーストにパイナップル・ジュース、そして何杯ものコーヒー。小さな四角に造形した端正な容器にひとり分ずつ入っているスイス製のジャム

ラズベリー

ふつうのいちご

マーマレード

葡萄

天ぷら

ショートケーキ

ジュース

天丼

清酒

ピーマンの煮たもの

ワイン



エディプス・コンプレックス


タイプライター






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by space_tsuu | 2018-08-29 00:01 | 赤い背表紙(短編)
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