朝起きた時に雲ひとつない快晴だったので、オートバイのガソリンを満タンにして冬眠させるために、今年最後のエンジンをかけた。お昼少し前に外に出たのだが、さっきまであんなに澄み渡った青空には、どこからともなく灰色の雲が音もなく押し寄せつつあった。
午後には雨になるだろうと思い、急いでオートバイにまたがり、ギアを一速に落とし発進した。 ただガソリンを入れるだけでなく、少し走ろうと思い、海沿いの国道に出た。10分も走ると、首筋のあたりや太ももに寒さを感じ始め、海が見える橋を渡る頃には勝手に身体が震え出した。内側にボアつきのジャケットを着ていたのだが、もう少し風の侵入をふせぐ格好で乗ればよかったと頭のすみで思いながら、信号待ちの時にはエンジンで両手を暖めた。 震えながらもう少し走り、住んでいる場所に一番近いガソリンスタンドで給油した。家に戻るなりバスルームにまっすぐ行き、バスタブに勢いよく湯をため始めた。しばらくして、そのお湯に肩まで浸かり、芯まで冷えきった身体を暖めた。冬が始まりつつある冷たさが、熱いお湯の中に溶け出していくような感覚を覚えた。と、突然、窓の外に、大きな雨滴が当たる音が聞こえてきた。ガラス越しに外を見ると、透明な水に墨汁を垂らしたかのような黒い雲が空一面に広がっていた。 その後、キッチンに行き、ケトルにお湯を湧かし、コーヒーミルのスイッチを入れコーヒー豆を挽いた。ていねいにお湯を注ぎ、出来上がったコーヒーを一口飲みながら、先日読んだ本に書いてあった文章を思い出した。 それは、一杯のコーヒーに使う水を地上に雨として降らせるためには都会のワン・ブロックを完全に占領している20階建てほどの大きさの雲が必要だという記述だった。 外はすでにどしゃ降りに近い状態だった。この雨の量だったら、何杯分のコーヒーが飲めるのだろうと思いながら、コーヒーをもう一口飲んだ。 ---------------------------------------------------------------------------------------------------
by space_tsuu
| 2005-11-25 00:00
| 私の心とその周辺
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